5.視線の行方

2/3

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
その間に何があった?目まぐるしく記憶を探る。 四月になって、やっぱりクラス別れちゃったね、貴くんが一組で私が二組、と校庭に貼り出されたクラス分け表の前でガッカリしていた肩をふざけて抱き寄せた。もうっ、ここ学校だって、といつもと同じセリフを口にしながら俺を押しやる耳元に、じゃあ後でと吹き込んだら、真っ赤になっていた。その後、帰り道のいつもの公園で抱き寄せたら、嬉しそうにクスクス笑った。あの笑い声ははっきり耳に残っている。甘く砂糖のような笑い声だった。 五月の連休中、部活の中日には映画を観に行った。ハリウッドの超大作アクションが観たいなんて高校男子まんま、と口を尖らせていた。そのくせ終わってみれば、スカッとしたよね、なんか最高だったと満面の笑みで俺の手をギュッと握った。 でも。思い出しながら胸が苦しくなる。丁度その後位からだ、何かがおかしくなっていったのは。毎日少しずつ。うっすらとした不安が胸に降り積もった。最初は気のせいだと思って、いつもより長く抱き寄せてみたり瞳を見つめたりした。手を握れば小さな指を絡めてくれるのを感じて安心していた。安心したがっていた。安心したがるなんて、おかしくなっていることの証拠だったのに。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加