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「あ、いわちゃん。ちょっとここ、立ち寄ってもいい?」
テストが終わった後、お疲れ様会をファミレスでやろうとなったので向かっていると、途中にゲーセンを見つけ、聞きながらお店の方に入っていく黒川。
「いや、俺が答える前にもう入ってんじゃん」と黒川の背中に突っ込みながら付いていくと、あっちこっちから聞こえてくる機会音の中から微かに「えー?」と上の空のような返答が聞こえる。
「全く。聞いちゃいねえな。あいつ」
そうぼやきながらふと横を見ると、視界に入ってきた猫のぬいぐるみ。
その場所にちょこんと座った状態で首を傾げ、くりくりなお目目で俺のことをキョトン。と見つめる全身真っ黒の猫。
見ただけで分かる、触ればきっと気持ちいいであろう、もっこもこそうな毛並み。
「…かわいい」
頬が緩んでしまい、思わずぽろっと口から溢れる。
「かわいい」
いきなり横から声が聞こえた為、聞こえた方へそのまま顔を向けると、知らない内にこっちに戻ってきていた黒川が、クレーンゲーム機のガラスに頭を預けながら俺を見ていた。首を傾げた感じはまるであの真っ黒の猫ようだったが、その表情はいつものニコッと言うより、微笑むような感じで。
なんだか、その細められた目で愛でられてるような感覚に、何故かいたたまれない気持ちに襲われる。
「な、なんだよ」
「欲しいの?」
俺の顔に少し近づきながら、黒川は真っ黒猫のぬいぐるみを指差しながら聞いてくる。
「いや、、違げぇし」
嘘。本当はめちゃくちゃ欲しい。
無類の猫好き且つ、ぬいぐるみ好きの俺にとっては欲しくてたまらないが、周りの目には俺のキャラとは不都合に映るのを知ってる。
少し動揺しかけたが、咄嗟に返答はしたので、バレてはないはずだ。
「わかった。取ろ」
「っん、え?」
黒川が500円玉を財布から取り出して機械の投入口へ入れる横で、俺は意味がわからず困惑する。
「ただ俺下手だから、最初から500円でやらせてね」
「それは別にいいけど、、ていうか俺、いらないってーー」
「いわちゃん」
俺の言葉を遮ぎった黒川は、こちらに顔を向ける。
「欲しいなら欲しいって、言えばいいんだよ」
「...ありがと」
「ん!」
優しく微笑む黒川は短く返事をすると、真剣な顔でぬいぐるみの方へ向き直った。
黒川の目には、俺が気持ち悪く映っていないのだろうか。
今までの経験とは違う状況に戸惑いながらも、真剣な表情でクレーゲームに向き合う黒川から、視線が外せずにいた。
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