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一瞬身体が跳ねたと同時にとっさに俯く。
声が出なかったのは幸いだったが、その後にやってくる"音"の恐怖を想像して、お茶の入ったペットボトルを握っていた手からは一気に汗が噴き出す。
耳を塞ぎたい。けど、今俺の部屋には黒川がいる。醜い姿は見せられない。そんな気持ちとは裏腹に動悸と息切れがさらに襲ってくる。パニックになりかけていた俺は、たまらずギュッと目をつぶった。
「いわちゃん。大丈夫だよ」
頭上の方から声が聞こえたかと思うと、俺の頭が何かにコツンッと当たる。すぐに暖かいものに包まれるような感覚がやってきて、微かに音がこもっているような錯覚と共に、遠くの方で"音"が聞こえる。
うっすら目を開けると、黒川に抱きしめられていた。
多分、少しでも"音"が遮断できるよう俺の頭を守るように抱えてくれている。
「いわちゃん。今ね、雨雲レーダー見ると、10分ぐらいで過ぎ去ってくっぽいから、もう少しで終わるよ。とりあえず、お茶じゃなくて猫ちゃん握っとこ」
握っていたお茶のペットボトルを取られ、すぐに猫のぬいぐるみが渡される。さっきゲーセンで取ってきたやつ。
俺はとにかく安心したくて、渡されたぬいぐるみをしっかり抱き込む。
大丈夫。大丈夫と言いながら黒川は優しく抱きしめ続けてくれる。
さっきまで乱れていた呼吸も落ち着いてきた気がする。
なんとも言えない安心感に包まれて、少し冷静になれてくると、この状況に急に恥ずかしさを感じて今度は別の動機に襲われる。
でも、この安心感からまだ離れたくない。
俺は「ありがとう」の意味も込めて、片手だけ黒川の背中に手を回してギュッと抱きしめ返した。
微かに"かわいい"という声が聞こえたような気がした。
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