ただ、強く抱きしめて

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昨日の豪雨は一体何だったのか。 今日は打って変わって眩しいぐらいの快晴だ。 いつも通り下駄箱で靴を履き替え、教室へ向かう。 「...どんな顔して会えばいいんだよ」 あれからすぐ豪雨は過ぎ去り、口早にお礼を伝えては、すでに色々とキャパオーバーだった俺は、半ば強引に黒川を帰らせた。 玄関で見送った帰り際に「また明日ね、いわちゃん」と言いながら、よしよしと小さい子をあやすように頭を撫でられ、黒川は満足気に帰っていった。 そんなことされたのは初めてで、俺は固まってしまって何も言い返せなかった。 昨日の出来事を頭の中で反芻していると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえて、肩に重みを感じた。 「おはよー。今日は晴れて良かったね」 見上げると、思ったより顔が近くにあった黒川とバチッと目が合い、昨日の雷が落ちた時のように心臓が跳ねる。 「ま、まあな」 思わず視線をそらして答える。 俺はどうしてしまったのか。 あれから黒川の顔をまともに見れる気がしない。 「いわちゃん。また雷がやってきたら、いつでも頼ってね」 そう言いながら俺の肩にのせた手で優しく頭に触れる。 「ちょっ、子供扱いしすぎっ」 俺は恥ずかしさから、その手を避けるようにして黒川の腕から急いで逃れた。黒川はずっとニコニコしている。 そうしているうちに教室の前に着くと、昨日とは違う女子達がまた出入り口を塞いでいた。こちらに気づいて俺と視線が合うと、少し怯えた表情に変わる。無意識だがまた眉間に皺が寄っていたようだ。 いや、だから、、そこを通りたいだけなのだが。 そう思ったが、ふと黒川から言われたことを思い出す。 "いわちゃんもっと学校でも笑うと良いよ" 「...えっと、、そこ、通ってもいいか?」 笑うとまではいかないが、眉間の皺がほぐれるように意識しながら、なるべく優しい口調で尋ねる。 はっと慌てながらも、"ど、どうぞ!"と道を開けてくれた。 そうか。気づいたらちょっと意識して直していけば良いのか。この子達も悪気がある訳じゃない。 なんだか腑に落ちた俺は少し嬉しくなって、自然に笑みがこぼれた。 「ありがとう」 彼女達にそう言って教室に入って行こうとするとき、少し驚いた顔をしながら照れた素ぶりで下を向いていた。 そういえば、後ろに黒川がいるんだった。やっぱりモテるやつは違うなと思いながら自分の席に着くと、何故か黒川が俺の席までそのまま着いてきていた。 「いわちゃん」 「...な、なんだよ」 いつもと違って様子がおかしい黒川を見上げながら返事をすると、 「笑うと良いなんて、、言わなきゃよかった」 「...はっ?」 訳のわからない事を言いながら、俺の机に突っ伏したのだった。 fin.
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