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この雰囲気。もう慣れた。慣れてしまった。
俺を見上げる女子達の表情は、明らかに“怯えてます“と顔で訴えている。そんな顔をされても、俺はここを通りたいだけなのだが。
そう思ってしまったことで気づかないうちに眉間にもしわが寄っていたようだ。そんなとき、いつもの聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。
「いわちゃん。おはよ」
肩に重みを感じたかと思うと、俺の名前を呼んだ黒川の腕がのしかかっていた。ふと横を見上げると、俺の顔を少し覗き込むようにしていた黒川と目が合う。
黒川はそのままニコッと笑顔になると、女子達がいる前の方へ顔を向けた。
「教室入りたいから、通してもらってもいいかな?」
「あっどうぞ!」
女子達は咄嗟に道を開けてくれた。その表情からは、さっき俺に向けていたときの怯えた様子はなく、むしろ少し照れたような表情に変わっていた。
モテるやつって言うのは、こういうやつなんだろうな。そう思いながら、俺は黒川に肩を組まれた状態のまま教室へ入っていった。
今日はテスト期間の最終日。午前中には終わる為、もうすぐで解放されると思うと気持ちテンションが上がる。
周りからも同じような空気感を感じつつ目線を配っていると、自分の席に荷物を置きに行った黒川がこっちに向かってくるのが目に入る。
「あ、眉間の"しわ"、消えてる」
席の側まで来ると、俺の眉間を指差して告げる。
「あ?」
「あ、また現れた」
クスッと笑いながら差していた手を伸ばし、俺の眉間に親指でそっと触れてくる。
「ちょっ、なんだよ」
急に手が伸びて来たので、少し驚いて反射的に黒川の手を掴んで阻止する。
「え?解そうと思って」
「いやいや、なんだよそれ」
黒川の言動は、たまに唐突で驚かされる事がある。初めて黒川に話しかけられたときも、前の席に後ろ向きで座って来て、"岩木くん、僕とお友達になってくれませんか?"と、突然話しかけてきた。
椅子の背もたれに腕を乗せた状態で軽く俺の顔を覗き込んできた黒川は、そういえばあの時もニコッなんて音が聞こえそうな笑顔を向けられたなと思い出す。
「いわちゃんいわちゃん。今日テスト終わったらさ、お疲れ様会でもしよ」
その提案には賛成だ。頑張った自分も、このテスト週間の疲れを発散させたかったところだ。
「まぁ、別に良いけど」
「よしっじゃあまた、テストが終わったあとで」
そう言って黒川はニコッと笑い、自分の席へ戻っていった。
いちいち笑顔が眩しいやつだ。
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