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【序章・継がれる想い】
『どうか、神様。ここに居る全員の願いを叶えてください』と。
あんたは覚えてないだろうけれど、いつかあたしの神社で願ったね。あたしにはその親切が嬉しかったんだよ。だってあんた、それまでに一度も神頼みをしたことがなければ、人生で人頼みをしたのも、三歳の頃に生前の親へ欲しがったビー玉一個だ。
物心つく前に綺麗な物に惹かれ、物心ついた頃にゃ、人の中にそれがあると気づいて他者の苦楽を何倍にも受け取ってしまう。いや、あんたは産声の意味をわからずにビー玉を求めたんだ。幾億の生命に託された正円が懐かしく、丸い物を無意識に欲しがった。
やり場のない悲しみだけを背負って、産まれた後で人の為に生きることが自らの欲求だとして生き抜いた。人から産まれ人の身ならざる精神故に、誰よりも人を知っていた。
背負いすぎってやつさね。だからその背負った苦難が死神だとさえ気づいて、微笑みながら、残される者の悲しみさえも払おうと抗って……。
始めよう、終わりに近づきすぎた運命を遠ざける為に。
終わらせよう、始めにすれ違ってしまった幸せを享受する為に。
その為ならあんた、今こそあたしが神説の見本を返す時さね。その為ならあたし、神が死神に挑むことすら厭わない。もちろん、死神なんてのは例えにすぎないけれど。あたしも、人の心の拠り所にすぎないんだよ。たかが拠り所か、されど拠り所か。
さぁ。そろそろ、まろどみから覚める時間。ここでの記憶をあんたもあたしも消されてしまうけれど。風前の灯火も、向かい風が吹くたびに追い風で守るから。架空を架空と否定することも肯定することもできるからね。
さぁて。あんたは一体どうするんだろうね? 架空が現実に干渉しないとするか、現実で架空に干渉できるとするか。意味をわかってもわからなくても、さぁお行き。
ああ、行ったみたいだね。本当に良かった。今度こそ、産まれたことを誇らしく生きるんだよ。
さて、今度は遺品のビー玉。というよりは水晶玉越しに居るあんたにも伝えるよ。正直あたしの向かい風だけじゃ、勝てない。防戦一方とも言える。でも神風は、あんたが頁を捲る度に起こる。軌跡が必ずいつか奇跡になる。
『どうか、異世界人よ。ここにある文章の願いを叶えてはくれないか』
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