第十八章・犠牲

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 背筋がゾッとする。  葉先が当たった部分を見ると、きれいにひび割れしてしまった。鉄製であるというのに、葉が鎧を刻むことなど到底あり得ない。 「まさか、生きているのか?」  リュウキは眉間にしわを寄せる。  紅い幻草は、威嚇するように花びらを小刻みに揺らした。その震動によって、甲高い音が響き渡る。  再度リュウキは拳を握りしめた。瞬く間に炎が放出され、巨大化していく。  その様を見て──いや「察知」しているかのように、紅い幻草は大きな子葉をリュウキ目がけて振り落としてきた。  しかし怯まない。リュウキは駆け出し、紅い幻草に向かって両手を翳した。  刹那、鋭い葉が腕や両肩に当たり、鎧はみるみる切り刻まれていく。あっという間に防具の内まで葉先が到達し、身体が切りつけられた。  辺りに血が飛び散り、リュウキは痛みのあまり顔を歪める。それでも攻撃をやめなかった。 「残念だったね。僕は炎の戦士だ。幻草なんて、所詮ただの雑草だよ!」  作り笑いを浮かべ、リュウキは意識を更に集中させる。  みるみるうちに炎は熱を帯び、眩しい光で周囲を照らした。  今の今まで鋭利であった葉にリュウキの火が燃え移る。一部が赤く染まり、すぐに黒くなって炭となっていく──  その僅かな時間。  花びらの隙間から、何か粉のようなものが大量に放出された。 「……うっ!!」  突然の出来事に、リュウキは思わずその粉を勢いよく吸い込んでしまった。  鼻の中へ細かい粒子のようなものが侵入し、甘い香りが全身を巡る。  なんと奇妙な感覚だろうか。身体がおかしなほどに興奮してしまう。  目の前が真っ赤に染まり、全身が熱くなっていった。  まさか、これは、  (紅い幻草の成分か……?)  妙な音を立て、紅い幻草は小刻みに揺れ続ける。まるで甲高い声でリュウキを嘲笑っているようだ。  だが、もう悲観している場合ではない。  全身がどれだけ熱くなっても、興奮していてもどうでもいい。  この世の「元凶」を根元まで全て燃え尽くさなければならないのだから。 「僕は何も怖くないよ。覚悟を決めたからね……」  手のひらから溢れる炎は、閃光を放つ。たちまちのうちに紅い幻草は花も茎も葉も全てが火炎に包まれ、灰となった。  ──これだけではまだ足りない。  各地に伸びきった根を燃やし尽くさねばならないのだ。  歯を食いしばり、リュウキは更に炎を巨大化させていく。両腕は痙攣し、血管が浮き出て汗が吹き出た。  力を押し出すほど、目の前が真っ赤になっていった。  リュウキは限界まで力を絞り出すつもりだ。  ここで何もかも終わりにさせる。揺るぎのない決意だ。 「さぁ、終わりにするよ」  地に生える根に、炎が燃え移る感覚がした。力の勢いをつければつけるほど、超特急で極太の根が焼け焦げていく。たしかな感触だ。  紅い幻草が燃えると同時に、周りに植えてある幻草も消滅し始めた。  ──まるで、全ての幻草が繋がっているかの如く。 
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