58人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
たまらず彼女の名を叫ぶ。
顔を真っ青にして、ヤエは返事もできないようだ。
どうすればいい。一体、どうすれば……。
リュウキたちが迷っている間に、リュウトの胸元から何かどす黒い液体が溢れ出てきた。みるみるうちにその液体は、ヤエの全身にへばりつくのだ。
すると──周囲の化け物たちは、なぜだか怯えたような目をして一斉に逃げ出した。
しかしリュウトの身から溢れ出るドロドロが勢いよく飛び散り、逃げ惑う化け物たちに張り付くと次々と引き寄せていく。化け物たちは、ヤエと同じく液体に動きを封じられてしまった。
「なんなんだよ、あれは!?」
ハクは困惑したように叫びながらも、巨大化したリュウトに向かって飛びついていく。高く飛び上がり、捕らえられるヤエに手を伸ばすが──
「触るな、触るな! こやつは朕のものだ、触るな!!」
絶叫しながらリュウトは腕を掲げ、目にも留まらぬ速さで拳を振り下ろした。思いっきり攻撃を受けてしまったハクは、そのまま地面に叩きつけられる。
「うぁ……!!」
受け身も取れずに、ハクは口から血を吐き出した。
「ハク!!」
目を丸くしてシュウが彼のそばへ駆け寄る。身体を抱き寄せるが、ハクは苦しそうに呻き、まともに身動きが取れなくなってしまった。
「まずい……このままでは……」
シュウの表情は暗い。こんなにも不安な顔をした彼は見たことがない。
「まさか、化け物たちが、吸収されてる……?」
顔を真っ青にし、朱鷺の少女はそう呟いた。
瞬間、リュウトの身体から大量の液体が飛散する。まるで意思を持っているかのように、朱鷺の少女目がけていく。
「きゃ……!」
宙を舞い、彼女は間一髪でドロドロから逃れた。
その様子を目の当たりにし、リュウキは混乱する。
「一体、何が起きているんだ……!?」
「分からない。分からないけど……とても不吉なことが起こってるみたい。あのリュウトという化け物、ドロドロで化け物を体内に取り込んでるみたいなの」
「な、なんだって?」
とんでもない話に、リュウキは息を呑む。
重苦しい空気が流れた。朱鷺の少女は神妙な面持ちで続けるのだ。
「もしかしたら、もしかしたらこのままじゃヤエさんも……リュウトに取り込まれるかもしれない……!」
どくん、とリュウキの心臓が低く唸った。歯を食いしばり、暴走するリュウトを睨みつける。
化け物たちを液体で体内に取り込んでいく度に、リュウトは一層巨大化していった。
「リュウキ。お願いだ、早く、ヤエを助けてくれ……」
弱り切ったハクがうつろな目をしながら訴えてくる。
「この世を救う為に、彼女を助ける為に……紅い幻草を燃やしてくれ……」
「ハクさんの言うとおり。みんなを助けて! あなたしか、炎の力を持つリュウキにしかできない!」
朱鷺の少女も、真っ直ぐとリュウキの目を見つめる。彼女の瞳に、迷いや恐れなど一切映っていなかった。
「ヤエも長くは持ちません。何卒、あなたの炎の力でこの世をお救い下さい」
シュウはハクと朱鷺の少女の前に立ち塞がり、氷の剱を構えてあの液体から彼らを守る体勢をとった。
彼らの意志は強い。
リュウキは今一度「化け物」の様子を眺めた。胸の中で押さえつけられるヤエは、下半身がほぼ液体に埋められていた。目は半分意識が飛んでしまっている。
本当に危険な状況だ。
「みんな……ごめん。行ってくるよ。全部、燃やしてくる!」
なぜ謝罪の言葉を口にしたのかはリュウキ自身も分からない。仲間たちの顔を見て大きく頷いた。
一切振り返ることはない。最西端の方へと足を向ける。
飛び散るドロドロの液体を躱し、瓦礫化としたシュキ城を飛び越え、幻草の香りがする方へとリュウキは駆け出した──
最初のコメントを投稿しよう!