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「放してください……!」
抵抗する少女。リュウキよりも頭一つ分は背が低く、何よりも細身であった。力の差は比べるまでもないだろう。
「放してほしいなら、剣を下ろしてくれないかな」
刺激しないようにリュウキは優しく言うが、少女は暴れることをやめない。
この光景を眺めていた白虎が大きく唸り声を上げ、姿勢を低くしてリュウキの前に立つ。先程よりも更に瞳孔が大きくなっていた。地が剥ぐ程に爪を鋭くし、今にも飛びかかってきそうだ。
「ああ、白虎君。君はそろそろ観念しようね」
リュウキは少女の腕を片手で固めたまま、右手からじんわりと火の玉を出現させる。
「な、なに?」
少女は驚きの表情を浮かべた。
火の玉が少女の腕を掠める。熱を感じたはずだが、火傷を負わせることはなかった。
この状況に、少女は余計に混乱の文字を浮かべている。
「大丈夫、君たちを燃やすつもりはないんだ。ちょっとだけ大人しくしてほしいだけだよ」
リュウキは瞳で火の玉を追う。目の前が微かに朱色に染め上がった。火の玉はリュウキの瞳の動きに合わせて踊り始めた。
みるみるうちに燃える玉は大きくなり、まばたきした次の瞬間には白虎の身体を完全に囲んだ。
「や、やめて。その子を傷つけないで!」
「少し君と話がしたいんだ。白虎君は興奮しているみたいだから、このまま動きを封じるだけだよ。話が終われば火は消してあげるから、その物騒な剣を足元に置いてくれないかな」
「お断りします。炎を自在に操る怪しい人の言うことなど聞けるわけがありません」
「僕が怪しい? 君だって同じじゃないか。こんな所で凍っていて、しかもその化け物と仲良くしているようだ。僕の火のお陰で氷が溶けたのに、いきなり襲ってくるなんて。君の方が怪しいし危ないよねぇ?」
「そ、それは……。あなたがハクに酷いことをしたからです」
「僕だけのせいじゃない。この白虎君は僕の大切な長い黒髪をばっさり切り刻んでしまった。ほら、もう肩上にしか髪がないじゃないか!」
「……」
面倒臭い男だ、と言わんばかりに少女は深く息を吐く。それからゆっくりと長剣から手を放した。
「お? やっと話をしてくれる気になったみたいだね」
「……埒が明かないので。お話が終わったらすぐにあの子を解放してください」
「ああ、分かったよ」
白虎の全身は円になった炎に囲まれ、まるで押さえつけられたように身動きが取れなくなっている。その様子を、少女は複雑な表情を浮かべて眺めた。
「ソン・ヤエ、と申します」
暗い声で、淡々とそう名乗る彼女。その名を聞いた時、リュウキはなぜか心がどくんと唸った。
「僕はまだ何も訊いていないよ」
「どうせ訊こうとしていましたよね?」
無理やり彼女の顔を覗き込み、リュウキは早口で疑問を投げつけ始めた。
「どうして君はこんなところで凍りついていた? 化け物と人が仲良くしているなんて驚きだよ。それに……」
「ちょっと待ってください。そんなに一気に質問されても困ります」
「ああ、ごめん」と苦笑するリュウキだが、物珍しい光景を目の当たりにして興味がそそられるのだから仕方がない。
「それよりも、あなただって特殊ですよね。炎を自在に操る人間など聞いたことがありません」
「そうだよね、ビックリするよね。僕も驚いているよ」
「と、言いますと?」
「僕もこの炎の力がいつ出せるようになったのか分からないんだ。でも、使えば使うほど扱いに馴れていく。意識を集中させるからものすごく疲れるけれど。しかも今みたいにぶちギレたりすると、巨大な炎が放出されるんだ」
「……恐ろしい妖術みたいですね」
「でもそのお陰で君は氷の壁から助かることができたんだよ」
「それには感謝します」
ヤエは未だに戸惑っているようだ。
お互いが珍しい人種と言えるので、どこから質問し、どう答えるべきか迷っているのが本音であった。
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