孤独な熱帯魚

11/12
前へ
/12ページ
次へ
***  「パパ、千里と麻美(まみ)を塾まで送ってあげて?」 「わかった!二人とも急げよ〜」  小学生になった娘達を塾まで送って行く。  来年は千里のお受験が控えている。 「パパ、終わったらマックに寄ってね」 「麻美はポテト食べたい!」 「ん、しっかり勉強しろよ?」  二人の可愛らしい返事を聞きながら、ニコニコと手を振った。  2時間後にまた迎えに来る。  俺は素早くメールすると、車を走らせた。  いつものカフェで、世那(せな)は退屈そうに待っていた。  滑り込むように椅子に座ると、世那は口を尖らせ上目遣いに俺を睨む。 「海里の気まぐれに付き合うと、疲れちゃうよ〜」 「ごめん。忙しくてさ」  注文したコーヒーを急いで飲むと、世那を促しカフェを出た。  俺が自由にできる時間は2時間だ。  水槽もないこの部屋で、俺と世那はただ求め合う。  世那の前はマイカ、マイカの前はカオリ、カオリの前は……もう忘れた。    群れて泳いでいる俺と、群れからはぐれて泳いでいる俺と、どちらの俺も上手く演じられている。  良き夫、良き父親、良き不倫相手。  「海里みたいな旦那を持つと、奥さんは大変だね?」 「……だな」  葵は気付いているだろう。  蘭と俺の仲さえ気付いていたのだから。   「泳がされてるんだよ、多分」 「ふうん……物分かりがいい奥さんね。怖いけどさ」  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加