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「パパ、千里と麻美を塾まで送ってあげて?」
「わかった!二人とも急げよ〜」
小学生になった娘達を塾まで送って行く。
来年は千里のお受験が控えている。
「パパ、終わったらマックに寄ってね」
「麻美はポテト食べたい!」
「ん、しっかり勉強しろよ?」
二人の可愛らしい返事を聞きながら、ニコニコと手を振った。
2時間後にまた迎えに来る。
俺は素早くメールすると、車を走らせた。
いつものカフェで、世那は退屈そうに待っていた。
滑り込むように椅子に座ると、世那は口を尖らせ上目遣いに俺を睨む。
「海里の気まぐれに付き合うと、疲れちゃうよ〜」
「ごめん。忙しくてさ」
注文したコーヒーを急いで飲むと、世那を促しカフェを出た。
俺が自由にできる時間は2時間だ。
水槽もないこの部屋で、俺と世那はただ求め合う。
世那の前はマイカ、マイカの前はカオリ、カオリの前は……もう忘れた。
群れて泳いでいる俺と、群れからはぐれて泳いでいる俺と、どちらの俺も上手く演じられている。
良き夫、良き父親、良き不倫相手。
「海里みたいな旦那を持つと、奥さんは大変だね?」
「……だな」
葵は気付いているだろう。
蘭と俺の仲さえ気付いていたのだから。
「泳がされてるんだよ、多分」
「ふうん……物分かりがいい奥さんね。怖いけどさ」
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