孤独な熱帯魚

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 葵もまた、俺との人生を演じている。  許した寛容な妻、教育熱心な母、おだやかな日常を偽りの色で染めている。  いつだったか蘭の部屋で、いつもは群れで泳いでいるカージナルテトラが一匹、水槽の端で泳いでいた。 「蘭、見てみろよ。俺みたいな、はぐれ熱帯魚がいる」  少し嬉しくなって蘭にそう言った。  熱帯魚だって、群れない奴がいるんだ。  孤高の熱帯魚──俺はソイツをずっと見ていた。  あまり動かないソイツは、群れて泳いでいる仲間を嘲笑うかのように、ゆっくりと尾ビレを動かしている。  水槽を覗いている俺に頬を寄せて、蘭はあの時なんて言ったっけ……。   「あ……この子は病気みたい。他の子に伝染る前に隔離しなくちゃ……」  病気の熱帯魚(オレ)。    熱帯魚は群れて泳ぐのが美しい。                  END
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