孤独な熱帯魚

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「お義姉さんって、なんとなく夜が似合うな……」 「ええっ!酷いよ海君、お姉ちゃんはそんなにケバくないでしょ?」 「だな……」  もちろん、水商売とかそんな意味じゃない。  夜に蕩けながら、本来の自分に戻るような女。   「今度二人で遊びに行く?お姉ちゃんは、意外と料理は上手だよ。面倒くさいらしいけど」 「じゃあ、居留守使われたりして?」  蘭は夜の帳にまぎれて、もう見えなくなった。  胸がキシキシと軋むような、得体のしれないうずきを何度もやり過ごす。  俺の中に生まれた蘭と言う波紋が、小さく広がった気がした。  大学のサークルで知り合った葵は、自己主張をしないおだやかな性格で、みんなの妹的な人気者だった。  よく気がつくし、はにかんだ笑顔が可愛らしい。  サークル内外で、葵を狙う男は多かった。  葵が一途に俺を想っている事がバレてからは、早く付き合え、まだかまだかの大合唱で。  外堀を埋められた俺たちは、自然な流れで付き合った。  葵と一緒にいると、運命とやらの流れも穏やかで、積み重なる二人の時間に不安も障害もなかった。  なのに蘭を見つけてしまった俺は、抗えない狂しい思いに支配されていく。  止めようとして  考えないようにして  いっその事見ないようにして  それが、子供だましのささやかな抵抗でも。
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