12人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「お義姉さんって、なんとなく夜が似合うな……」
「ええっ!酷いよ海君、お姉ちゃんはそんなにケバくないでしょ?」
「だな……」
もちろん、水商売とかそんな意味じゃない。
夜に蕩けながら、本来の自分に戻るような女。
「今度二人で遊びに行く?お姉ちゃんは、意外と料理は上手だよ。面倒くさいらしいけど」
「じゃあ、居留守使われたりして?」
蘭は夜の帳にまぎれて、もう見えなくなった。
胸がキシキシと軋むような、得体のしれないうずきを何度もやり過ごす。
俺の中に生まれた蘭と言う波紋が、小さく広がった気がした。
大学のサークルで知り合った葵は、自己主張をしないおだやかな性格で、みんなの妹的な人気者だった。
よく気がつくし、はにかんだ笑顔が可愛らしい。
サークル内外で、葵を狙う男は多かった。
葵が一途に俺を想っている事がバレてからは、早く付き合え、まだかまだかの大合唱で。
外堀を埋められた俺たちは、自然な流れで付き合った。
葵と一緒にいると、運命とやらの流れも穏やかで、積み重なる二人の時間に不安も障害もなかった。
なのに蘭を見つけてしまった俺は、抗えない狂しい思いに支配されていく。
止めようとして
考えないようにして
いっその事見ないようにして
それが、子供だましのささやかな抵抗でも。
最初のコメントを投稿しよう!