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結婚式を挙げてしまうまでは、忙しさに身を任せていた。
目の前で、嬉しそうに微笑む葵を幸せにしたい──本心だ。
一方で、義姉として接する蘭の中身を知りたい欲求も本心だった。
蘭を覆う皮を引っ剥がし、その中を覗いてみたい。
きっと、覗くくらいでは我慢できなくて、触れて掴んで混ざってしまいたい。
想う度に胸が軋んで、凶暴な何かを無理やり抑え込む。
すぐ隣で眠る、穏やかで優しい幸せに満足するフリをしながら。
雨の匂いがする。
得意先から直帰しようと思ったのは、もうすぐに降り出すだろう雨が鬱陶しいから。
恨めしげに空を見上げ、通りのカフェをチラリと見た。
「雨宿りが無難か、それとも走るか」
ポンと肩を叩かれて振り返れば、一瞬、息が止まった。
「海里君も雨の心配?」
ポツリポツリと雨が落ちてくる中、蘭は俺の腕を掴み走り出す。
「まったく……ツイてないわね」
ヒールを鳴らし器用に走る蘭は、しなやかな黒豹のようだ。
まだ夜には早い時間帯なのに、蘭はやっぱり夜を纏って走っていた。
「寄って?雨が止むまで」
蘭のマンションに着く頃には、雨も小降りになっていた。
俺にタオルを投げて、すぐにキッチンに向かう。
シンプルだけどセンスのいい部屋は、高そうな間接照明やタペストリーに現れている。
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