孤独な熱帯魚

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「熱帯魚飼ってるんだ?」  部屋の主役と言わんばかりに水槽が置かれ、かすかなモーター音も聞こえる。  ブルーの光沢あるカラダに、鮮やかな赤のライン、カージナルテトラ。  広い水槽を小さな群れで泳いでいる熱帯魚達。  水草の間を行ったり来たり、覗き込むと群れが一瞬バラけたが、また一緒に泳ぎだす。  丸椅子が置いてあるのは、ここに座って熱帯魚を眺める為だろう。  夜の中で、蘭が蘭になる時間かもしれない。  冷蔵庫の中を覗き込む後ろ姿に、吸い寄せられるように近づいた。  一言二言会話はしてもそれは意識の外で、雨に濡れた蘭の髪に手を伸ばす。  振り向いた蘭をそのまま強く抱きしめた。  なんて言ったのかわからない。  熱に浮かされたうわ言のように、言葉を吐き出すけど本心ではない。  触れてしまうと、もう駄目だ。  蘭の瞳が困惑に揺れていた。  それでも止められない、止めるつもりはなかった。      俺がシャワーを浴びて出てくると、部屋の明かりは間接照明だけになり、水槽を青く浮き上がらせていた。  丸椅子に膝を抱えて座り、ジッと熱帯魚を眺めている蘭は、夜そのものに見えた。  美しい唇が動く。 「雨が止んでるから、帰った方がいい」  蘭の髪に手を差し入れ、自分の胸に引き寄せる。  逃さない。 「また来る」  返事も見送りもなかった。  
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