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「お姉ちゃんがお見合い……よほど寂しくなったのかな?」
独り言のような葵の呟きに、胸がザワつく。
「上手くいきそうなのか?」
「うん。多分ね」
寝返りを打ち、苦しそうな葵の背中をゆっくり撫でる。
守るべきは葵で、求めるのは蘭。
そんな勝手な線引を、蘭は許してくれなかったという事か。
1週間後、葵は元気な女の子を産んだ。
家族と言う群れの中に放り込まれた俺は、すぐに並んで泳ぐ事を覚えた。
蘭も、俺と同じ道を歩くのか。
群れて泳ぐ蘭なんかよりも、痺れて跳ねる蘭の方が似合っているのに。
葵から聞くたびに、蘭は猛スピードで結婚への道を暴走している。
付き合い出した。
結婚が決まった。
結納を終えた。
「式の日取りが決まったみたい。やるわね~お義兄さん」
「って、早くないか?まさかお義姉さん、授かり婚?」
葵はプッと吹き出すと、ないないと笑い転げている。
「シンガポールに行くんだって!お義兄さん、転勤らしいの」
グズる我が子と葵を寝かしつけ、俺はリビングに戻ってきた。
畳み掛けるような蘭のスピードが不快だ。
振り返りもせずに、俺を置き去りにするつもりなのか。
《明日会いたい》
既読はなかなか付かなかった。
テレビの天気予報が、明日も晴れだと告げていた。
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