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義弟の役はやりたくない──だから結婚式は気に食わない。
蘭の隣に座る、冴えない野郎が気に食わない。
インテリぶった顔と眼鏡が、気に食わない。
酒を注いで、注いで、潰してやろうとしたのに、俺の方が飲みすぎた。
ぼーっとした頭を振りながら立ち上がると、足がもつれる。
「大丈夫、海君?冷たいお水、貰って来るね?」
葵から受け取った水を一気に喉に流し込み、苦笑いを浮かべた。
葵が心配そうに微笑み返す、いつものように。
そしてキュッと俺の手を握ると、姉を静かに見ていた。
披露宴の終わりが、葵の始まりだった。
葵が両親の前で、高らかに宣言する。
自分の姉が俺と不倫した事実を、証拠を揃えて完璧に暴いていく。
「私はお姉ちゃんをゆるさない。海君は私の大切な旦那さんで千里のパパなんだよ?酷すぎるよ……もう、姉でも何でもない。ただの泥棒猫だよね」
千里を抱いた葵が、俯く俺を覗き込んでくる。
「海君もだらしないよ……お姉ちゃんが、私の代わりなんて出来るはずがないのに。……ただの遊びでしょ?遊びなら──忘れてあげる」
タイミングよく、千里が小さな手を俺に伸ばしてくる。
俺はその手を握りしめた。
葵が微笑み、俺の背中に顔を埋めた。
その瞬間葵の勝ちが決定し、俺は敗者となった。
「やり直そ?私なら大丈夫」
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