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立ち位置は後付だ。
葵から家族を紹介された時、俺は咄嗟にそう思った。
斜め前に座るこの女を、これからお義姉さんと呼ばなければならない。
出逢いがどうして顔合わせの席なのだろう。
俺と蘭は、出逢った時にはそれぞれの役が決まっていて、筋道も出来上がっていた。
「緊張するよね?ごめんね、お父さんもお母さんもはしゃいじゃって」
葵が困ったように小声で囁いてきても、スマートに返す余裕もなかった。
目の端に映る未来の義姉に、暴れる心臓を宥めるのが不可能だったから。
どんな言葉を掛けたら、その澄ました仮面が剥がれるのだろう。
どれくらい見つめれば、俺を見つめ返してくれるのだろう。
「海里君、甘やかしてしまった我儘娘だが、末永くよろしく頼むよ」
「……葵をよろしくお願いします」
お義父さん、お義母さんが深く頭を下げる。
葵と誓った《一緒に幸せになろう》の言葉が、喉に絡まり出てこない。
「こちら……こそ、よろしくお願いします……」
葵がキュッと手を握って来た。
それを合図に、俺は暴れる心臓をようやく抑え込む。
何を血迷っているんだ俺は。
俺が結婚するのは、隣で微笑んでいる天使のような葵で、取り澄ました姉ではない。
会食を終えると、義姉はさっさと駅の方角へ歩き出した。
その後ろ姿に、やはり見惚れてしまう自分がいて、慌てて葵の手を握りしめた。
俺が蘭を見つけた日だった。
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