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泪の意味は?
もう弟もこの世に居ない……
一体この兄弟にどんな過去が有るというのだろう? 姉であるユートピュアの方は、仮に僕だとして、もう弟は亡くなって居る。
しかし彼女に血を分けた姉弟が居たということが分かった。それはつまり、もし彼が生前に子孫を残していた場合、まだその子ども達は生きているのだろうか?
ところで絵を良く見ると、この男の人も僕と同じ指環を嵌めている。そして、それはつまり血族を意味しており、姉弟である証しだと冷静に考えれば、この絵から読み取ることが出来たのではないだろうか? 家族写真のようなそんな類のものだと、気付けたはず……
僕が見知らぬ男性にギュッと手を握られてるのをあの絵から想像して、変に意識してしまったために、恋人か何かだと思ってしまった。
いくら記憶喪失という設定にしていても、今後はもう少し慎重に質問をした方がいいだろう。
まあ、今は誰も僕の事を疑っている人は誰もいないのだけど……兎に角、今後はもっと慎重に質問をしていこう。
「如何なされました? ユートピュア様!?」
「えっ!」
ツーーーーーーーーーーーーーー
何かが頬を伝い、ボタッとドレスに落ちて音を立てる。無意識に目からそれは零れ落ちると、決して激しくはないが、ユックリと続けて、今度は左の頬も同じ様にツツーーと流れる。
零れ落ちると共に、やがてそれは交互に流れ落ち始め、いつしか止まらなくなっていた。
何で……僕は泣いているんだ?
自分でも分からない、でも急に胸の辺りが苦しい。何なんだろう……あの絵の姉を愛おしく見詰める瞳が、まるで今の自分を見詰めているかのように見え始めた、そして絵から目が離せなくなると同時に、僕のいまの身体がそれを憶えているのか?
悲しさの波で胸が一杯に満たされ溢れて止まらない。
その悲しみの波が心で受け止め切れなくなったものが、心の防波堤を超え、瞳から決壊して零れ落ちるかのように。
「コレをどうぞ、ユートピュア様」
「有り難う御座います」
そう言うと、スッと素早く差し出されたハンカチを取り、それを顔を覆うようにして、目頭を抑えた。
これ以上公衆の面前で男の自分が(見た目は丸々女の子だが)恥ずかしい姿を晒したくは無かった。
それにしてもアイゼンハルト卿は誰よりも行動が早くて、僕でも胸キュンとしてしまいそうな程、紳士的な方でビックリした。
まるで乙女ゲーに出てくる異世界の素敵な王子様だ。
ハンカチで顔を伏せ、絵から目が離せて安心したのか? そんなゲームのことを考えて居ると、少し笑いが込みあげて肩が震え出していた。
(やばい、アイゼンハルト様の動きってあのゲームのキャラにクリソツ!!)
こういう時は抑え込もうと思えば思うほど、結果が酷くなるから不思議だ。
何とか声は出さずに済んだが、周りはどうやら自分の肩の動きが、悲しみから来ていると勘違いしているらしい……
ハンカチで隠したアホ顔を晒さないため、落ち着くまで僕は、肩を揺らしながら隠し続けた。
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