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絵の中の人物
絵の中に映る、優しく微笑むその女性の顔は、僕だった・・・・・・
絵を見ている筈なのに、まるで鏡を見ているような気にさえなる。
それよりも彼女の隣に立っている男性は誰だろうか? 彼女は手を膝に乗せて座っており、その手に彼は自らの右手を乗せ、優しく彼女を見つめている。
恋人同士なのだろうか?
淡いタッチで描かれていたが、まるで二人はそこで息をし、今も会話をしているように見えた。
はっと気が付くと、僕の目の前には先程この絵を運んできた三人は勿論、この部屋の四隅を護衛していた衛兵達まで、僕の目の前で跪いていた。
「この眼で貴女様とお会いできますとは、至極光栄の至りで有ります。」
「まさか、末裔などでは無く、御本人様とお会い出来ますとは」
「「「 ホワイト・スノー皇国の栄光あれ」」」
僕が口から出任せで呟いた名前が、本当にこの世界で実在している人物だなんて、しかもその本人と名前だけで無く、顔まで一致するなんて!
何という偶然なのだろう?
まさか自分の下の名前を文字っただなんて今更言える筈が無い。
指輪、顔、名前まで一致したのだから、もう疑いが掛けられることは無いだろう。
しかし、今自分の中の疑問を口に出せば、この信頼も直ぐに崩れるに違い無い・・・
でも、やはり気になる!?
この男性は誰なのだろう? もし僕とは違って本当に生きていたとしら、対面した時にどうやって僕は対処すれば良いのだろうか?
そうだ、皆を騙すようで申し訳ないが、この女王の事を知るために僕は記憶喪失の振りをしよう。
取り敢えず自分の名前だけは憶えていると言う前提で話を進めよう。
そのうえでの設定として、自分は突然目が覚めて、この時代にいること、自分がいた時代とはどうやらいくらか違うような気がすること(本当は情報収集のためだが)、是非あなた方が知る情報を、この偶然では無い出逢いと信じ教えて欲しいとお願いしよう。
ヨシっ、そんな感じで聴いてみよう。
……もしダメなら、少し気持ち悪いけど、身体は女性のそれなので、女の武器を使ってみよう。
「すいません、ちょっと質問をさせて頂いても良いでしょうか? えーと……」
「これは失礼、私はここで宰相をしております。ビスケンマルクと申します。して、どうなされました? ユートピュア様」
「その絵の方なのですが?」
「貴女様では無いのですか?」
宰相の訝しげを含む言葉に、皆が一斉に振り返った……
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