ドキドキは束の間に

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ドキドキは束の間に

 ドアを閉めた際に、ドアの奥で男性諸氏の方々の苦悶の声が響いたが、それはユートピュアには届かなかった。  それよりも、先ほどの行動に対し、思わず自分から彼女の手を握ってしまった……  言い訳かもしれないが、物凄く切ない横顔をしていたからだ。  自分としては礼儀として、公爵の方々へ一礼をと思い、ギュッと握られた手を振り解いてしまった。そうギュッと力強く握られていたので、こちらもついつい力んでしまったのだ。  それが、彼女には僕が嫌がっている様に受け取られてもおかしくなかった。彼女の行為を無碍に出来ない。  もちろん例え自分がユートピュアと思われての好意だとしても……  手を強く握り返された時の、彼女の驚いた顔にはドキッとさせられた。  それは元の世界で例えると、デートの約束をしてたけど、待てども待てども全然彼氏は来ない。私の事なんか興味無くって、それよりも男同士でまた遊びに行っちゃったのかな~~っと、ガードレールの上に座ってぼぉ~~っとしてたら、急に後ろから手をギュッと掴まれ、ビクッとしたかと思うと、目をパチパチパチとしばたたかせてから、ニッコリ"嬉しい"という微笑む、まるでそんな表情を彼女は、ローゼンマリアさんはしたのだ。    思わず、キュン死しそうになった!?  もちろん元の世界ではそんな体験はしてなくて、アニメとかドラマで見たシーンと重ねた訳だが、まさか異世界でそれと同じ、いやそれ以上のドキドキ体験をするとは思ってもみなかった。  見た目では自分の方が若いが、実際は大分年齢が上なのだろう。見た目は女、心は男のこの僕にとっては、彼女は紛れも無い年上のお姉さんだ。  元の世界の関係なら大学のお姉さんと、高校二年の男子で、かなり大人な恋愛体験を期待してしまう。    でも、現実の関係に戻せば、女同士の関係。  周りの男性達の好奇な目で見られることを恐れ、恥ずかしさのあまり急いでドアを開けて、彼女を連れて廊下へと飛び出してしまった。  バっと勢い良く廊下に飛び出したので、給仕係の一人が”ヒィッ”と驚いてひっくり返ってしまった(汗)  幸いお皿などのような陶器製の物を運んでおらず、代わりに沢山のリネンが赤い絨毯の上に散らばった。  申し訳なかったので、それを拾おうとしゃがもうとしたが、グッと引力がかかったように反対方向に引かれると、手を握っていた彼女とまた目が合う。  少し不機嫌な顔をしながら、彼女が開いた言葉に、少し言葉を失った。
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