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不可思議な物体
トンッ…………直ぐに足先がぶつかった。
ほんの二歩足を進めただけの距離にそれは有る。
今度はゆっくりと腕を上げ、指と手の甲がそこへぶつかると、ゆっくりゆっくりと上げて行った。
ズズッズズッ……ズズズ…………ズズズズ
目視する事は出来ないが、何かに触れて入る事は間違い無い。
触れれば音がする。今度は先程よりも更にゆっくり左右に滑らす。
ススス、カタカタ、スススス、カタカタッッカタ。
壁のような物には段差が有り、所々に隙間の様な凹みを感じる。指先に変えると更にその感触が確かとなる。
間違いない……指で探り当てた一番出っ張ったそれを、親指と人差し指中指で掴み、引っ張り出す事にした。
僅かにそれは動いたが、身体が女の子の姿のせいなのかわからないが? 片手では引き抜く事が出来ない。仕方なく両手を使ってそれを力を込めて引き抜くことにした。
間違い無いこれは本棚で、そして今僕が手に握っている物は間違い無く本だ。今度は感触を確かめる。形は直方体、尖って無く、丸みが有り表面が若干であるがザラザラしている。恐らく結構良い素材の物を使っている。
次にそっと開いてみる…………
(あれ? あれれ? ビクともしない)
どういう訳か、角度を変えても開く事が出来ない。留め金を使用したタイプでも無く、通常で有れば開く事が出来るのだが、何度試しても開く事が出来なかった。
そもそも暗くて何も見ることは出来ないので、開けても意味は無いのだけれでも、それでも開く事で此処が本の有る、いや本が揃う場所である書庫か図書館である事を確信したい自分がいた。
もちろん本が有るからって絶対にその場所だって、決めつける事は出来ないけれど…
仕方無く本で有ろう物を元の位置に戻す事に決め、さっき抜き取って出来たであろう隙間を手探りで探した。しかしまた奇妙な事が起きた。何度探しても有るはずの隙間が無い…………
別の本が横に倒れたとしても、斜めになるのでその隙間を見つける事が出来る筈。幾ら暗くて見えないと言っても、普通では考えられない事が起きた。
まるでコンビニの飲料水の冷蔵庫の様に、その隙間は埋められていた。
しかし驚きはそれだけでは無かった!
これでは元に戻せないし、どうしたものかと左手に持っている物を上げようとしたその時。
(無い…………)
左手に持って居た筈の物が無くなっていた。
まさかとは思ったが、こうなると考えられる事が一つ、先程の本棚の隙間へ自ら元ある場所へ戻った可能性が考えられた。
そんな馬鹿な事がとは思っていたが、ここは異世界。この現象を確かめるため、幾つかの本でランダムに試してみることにした。暗くて何の本を持っているか何てのは分からなかったが、最初の本と同じ様に開く事が出来なかった。
また不思議な事に本棚から抜き取ると、急に質感自体が変化し、滑り気が有ったり、物凄く熱くなったり、液体を触っている様な感触になったりとするというものも有り、共通して言えるのは、暫くするとやはり手から無くなる事だった。
そして同じく本棚の隙間が綺麗サッパリと埋まっており、本のような物体自ら手から消え、そして元の位置に戻っているとしか説明がつかない
つまり、最初の推察は間違っていない事が分かった。
まあ実際に眼で確かめてる訳では無いので、本とは全く別物の何か?かもしれないのだけれども……開く事が出来ないため、本だと言う確信が揺らぎ始めていた。
しかし、もう一つ此処で分かった事は、ここが本が有る場所だと仮定して、人の出入りが有る場所だと言う事。先程から歩いても、本の様な物を引き抜いても、埃一つたたないからだ。
もし、人の出入りが無い場合、少し歩くだけでも埃が舞うはずだ。もちろん暗い部屋なので素早く動ける訳ではないが、ゆっくりと歩いていたとしても人があまり立ち入らない場所で有れば、埃が舞い、鼻が痒くなったり、喉にイガイガが生じる。
しかし此処ではその様な現象は起きない。
今は何時なのかは分からないが、ローゼンマリアさんの場所から移動する頃にはもう日が傾いていた。ここの部屋は元々外の光が入らない構造なのかもしれないが、もう夜の時間帯の為、誰もこの部屋には出入りしていないのかもしれない。
だからと言ってこんな訳も分からない場所にずっと居ても仕方が無いし、人が出入りする場所と分かった以上、此処に長居をするのは無用であり、今度もシュタッフェン公爵家の様に歓迎されるとは限らない。
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