第1部

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第1部

「女の子やってるの、めんどくさい」  つい、タヌキさんの前でつぶやいてしまったのが運の尽き。  近所でも凶暴なことで有名な隣家の猫と、タヌキさんが取っ組み合っているのを家の裏手で夜中に見つけた。私は間に割り込んで威嚇する猫の突進を食い止めてあげた。  タヌキの恩返し。  そのあと夢に現れたタヌキさんが「親切なお嬢ちゃん、このサクランボを食べた分だけ願いが叶いますよ」と言ってきたとき、私は生理中で、夢の中でもむしゃくしゃしていた。  今思うと、タヌキはタヌキらしく、ちょっと小ずるい目つきをしていたのだった。  翌朝、私は異変に気づいて冷や汗が出た!   * * *  でもはじめは楽だと思った。だって、生理がないってことよね、ってすごい解放感だった。  そりゃ、私だって不安がなかったわけじゃない。私だってJKだし、一人前に好きな男子生徒もいる。  真崎くん。  一年の頃から憧れてたけど、今年は同じクラスになれて、チャンス! って思ってた。だから、男になると、ちょっとまずい。しかも、いきなりこんなシーンにぶち当たるなんて。  昼休みのトイレ。なるべく人の使わない場所に行ったのに、まさかのバッティング。憧れの真崎くんがそこにいた。  逃げ出すわけにもいかなくて、はじっこに行く。いや、恥ずかしい。真崎くんのほうを見られない。 「ひっ」  思わず悲鳴。制服のズボンのファスナーを開けたら、――ない! 穴がない! う、後ろ前逆に履いてた、男物のパンツ!  「どしたん、薫」  私の名前は、「薫」。男とも女ともとれる名前でよかったと思ったものだ。――と、それどころじゃない。  真崎くんは私を見て大笑い。思わず顔を向けた私は、。  のぼせて顔が熱くなる。頭がふらつく。  脂汗を浮かべる私に向かって、彼は言った。 「個室使えばいいじゃん。俺、誰にも言わないよ」  真崎くん、やさしい、と思ったのも束の間。  噂はあっという間にクラスに広まっていた。  ショック。真崎くん、そういう人だったんだ。あろうことか女子たちまで私を見てくすくす笑い。私のあだ名はその日のうちに「水玉」。  つまり私は「男」になってしまったとき、こっそりスーパーのメンズコーナーでパンツを買った。でも、なるべくかわいいのが欲しくて、水玉模様を選んだのだ。  その夜から、私は熱を出して寝込むことになった。
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