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疑ってるというのじゃなくて、信じられなかった。本当? 本当に、真崎は僕が好きなの? 好きなんだ、よね?
しばらく何と言っていいのかわからないかった。風が吹き抜けた。夕陽は確実に赤みを増している。微かに揺らめいているのが目に入ってきた。
「真崎」
かすれるような声で僕は言った。
背後で温かい息が漏れた。
「友だちって言ったけど、やっぱり薫の気持ち、聞かせてくれる? 無理しないでもいいから」
無理なんて! だって僕の気持ちは女の子だったときからずっと……!
「わ、ぼ、僕も……」
真崎が息を殺す気配が分かった。
「僕も、真崎が好き。ずっと、ずっと前から!」
吐き出すように言ってしまった。だって、本当に電車のなかで盗み見していたあのころから。まだ同じクラスでもなかったころから。
同じクラスになって毎日がどきどきの連続で、自分でもどうしていいのか分からなくて。
もちろん、近づくことなんて思いもよらなかった。ただ、遠くから憧れているだけでも当時の私=僕には十分すぎるくらいだったんだ。
真崎の背が高くて筋肉のついた身体、長くてくっきりした首筋。さらさらの少し薄茶の髪。でも、そんなこと以上に、眼。そうあの優しくて悪戯っぽい眼。水泳部の癖に色白で、唇は薄くて。
「私」のときも、「僕」になってからも、まぶしくて仕方ない存在だったんだ、真崎は。
「薫、ほんとに?」
その真崎が今、後ろから僕の肩を抱いて小刻みに震えている。
一筋にたなびいた雲も金色に輝き始めた。
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