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熱にうなされながら、私はあのサクランボをお腹いっぱい食べてしまったことを心の底から後悔した。
小さくてかわいくて、つい口に含み、あまりの旨さに次から次と食べてしまった。
後悔に身をよじっていると、夢にまたあのタヌキさんが現れた。
「食い意地張ってるな。食べた分だけ長く男になったままだ」
朦朧としつつもぞっとした。
私は結局あのサクランボを全部食べてしまっていた。
「ひ、一粒で何日くらい男になってるの?」
かろうじて訊くが、返事はない。タヌキさんはいなくなっていた。
ごめんなさい、ほんの出来心で。許してください、タヌキさん。
そう思いながら泣きつづけていた。
母はすっかり困って、父に相談したらしい。
「薫、入っていいか」
「うん」
私は真崎くんの非道な行いを訴えた。けれど父はだんだん不満げな表情になっていく。
「俺はお前を、そんな軟弱な男に育てたおぼえはないぞ」
なくて当然です。一週間前までは女だったんですから。
両親は始めから私が男の子だったと信じている。両親だけじゃない。クラスのみんなも、先生も。
「水玉がなんだ。俺なんか、星模様のパンツでも堂々と履いていたぞ」
そういう妙な自慢話をしないでください。
父のお説教をやり過ごして、私はまた寝入った。
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