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そのあと、ずっと僕たちは平らな岩の上に座って、肩を抱き合いながら沈む夕陽を見ていた。ほんの少し、キスくらい期待したけど、何だか今だけのこの幸せを十分に味わいたい気持ちが勝って、真崎の呼吸に合わせて微かに揺れる身体に身をあずけていた。何も話をしなかった。それで十分。今の僕は真崎に寄りかかって座りながら、ただこのままでいたい幸福感に浸っていた。言葉なんて要らない。初めての経験。そう、女の子のときも、男の子になってからでも、真崎は僕の初恋。好きになったのって、本当に初めてなんだ。
やがて遠くに拓ける川原も薄く翳りを帯びて、川向こうの住宅にぽつんぽつんと灯りが灯りはじめた。陽はもう地平線に沈んでいるほうが大きくなっている。最後の一滴まで見届けてから帰りたいなと思った。真崎も同じ気持ちかな。そっと横顔を盗み見る。筋の通った鼻の形、きれい。見ているだけで幸せ。
いつも明るくて、誰にでも気さくで優しくて、全然目立たないけど、実は勉強の成績もいいんだよね。僕はずっと知ってたよ。水泳部で、泳ぐ姿も大好き。本当に魚になったみたいだ、ってびっくりしたんだ。きれいな流線形。
最後の滴が消えた。真崎がそっと立ち上がった。あ、僕と同じように考えていたんだな、と思った。
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