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倫子ちゃんは女の子だったときから、ひそかに憧れて、いちばん信頼していた子。肩までの黒髪が清潔そうに切りそろえられていて、眉が少し濃いけど、色白だから映える。黒目の大きい感じのよい眼。大人びているけど、気取った感じもなくて、なぜか最初から私を好いていてくれた。
そう。
以前のように倫子ちゃんと話せないのはちょっとしたフラストレーションだった。だから、今声をかけられて、僕はうれしくなってしまい、うかつにも「なあに、倫子ちゃん」と言いそうになって、慌てて口元に手をやった。
それから倫子ちゃんの表情を見て、いつになく頬が染まり、眼が訴えているので驚いた。前は──僕と女の子として友だちだったときは──こんな表情はほとんど見たことがない。いつも倫子ちゃんがお姉さんのようなところがあり、僕は倫子ちゃんについていくのが楽しかった。だから僕にはこんな深刻な表情を見せたことはこれまでになかったのだ。
「薫くん、ちょっと庭に出ていい?」
図書室の前はちょっとした庭になっていて、ベンチもある。私は「うん、いいよ」と内心驚きながら返事をした。
ちょうど他の建物の影になる時間で、庭は案外涼しかった。夏の終わりが近いことを感じる。
木でできた背もたれのないベンチに、倫子ちゃんは先に腰かけた。両手をぎゅっと握りしめていることに僕は気づいた。何か思い詰めているような。
「あの、あのね、薫くん。絶対に、誰にも言わないって、約束してくれる?」
倫子ちゃんの声は震えながらもかたい決意を感じさせた。
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