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私……いや僕は、ごくりと喉を鳴らした。
「うん……どうしたの? 藤本さん」
倫子ちゃんは藤本倫子というのがフルネーム。
「あの、ね。薫くん、最近すごく真崎くんと仲がいいでしょ? それで」
口ごもる。
僕は不安に駆られながら辛抱強く待つ。
「薫くんなら、きっと信用できるって、なんか、そんな気がして。それで、聞くんだけど」
もう、予想はつく。何て答えればいいんだろう?
「私、真崎くんが好きなの。あの、真崎くん、彼女いるのかな?」
そう言ってから唇をかみしめてうつむく彼女。僕は予想していたにもかかわらず、ものすごい衝撃を受けていた。
倫子ちゃん、僕には一言もそういうこと、言ってくれなかったよね? という寂しさと、同じ人を好きになっていたという事実へのショックと、それから真崎が僕、つまり男の子を好きだという隠している現実。
頭がくらくらした。何て言えばいいんだろう。倫子ちゃんの伏せた目のまつ毛の先までじっと見つめて、僕は言葉を探した。何て言えばいいんだろう? こういうとき、どうすればいい? 何も言葉が浮かばない。
僕が押し黙っているので、倫子ちゃんはそっと目線をあげた。そのすがるようなまなざしが、倫子ちゃんの本気度を物語っていた。
情けないけど、僕は、その場逃れをする以外に方法が見つからなかった。
「え……と。僕、そういうこと、真崎から聞いたことないんだ。ごめんね」
疑いの混じった失望の表情は僕を打った。
「今度、それとなく、聞いてみるよ、あいつに」
そう言ってしまってから、死ぬほど後悔した。
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