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「薫! いつまで寝てるんだ?」
うっせーよ、親父。デリカシーなさすぎ。僕は夕べ全然眠れなかったんだ。それでぼうっとしてるんだ。僕のこの繊細な悩みなんて、こんな親父にはわかりっこないんだ。
「いつもいつも友だちを待たすもんじゃないぞ」
はっとした。そうだ、真崎に連絡しなかったんだ。迷いに迷いながら、結局できなかったんだ。真崎は昨日僕が先に帰ったことを心配して、今日はうちまで来てくれたのに違いない。
真崎!
胸が熱くなる。痛みとともに、それでも僕は真崎が好きだ。
いつものような支度もせずに、急いで玄関まで飛び出していった。また母さんが真崎と楽しそうに談笑している。親父、少しは妻のことを心配しろ。
「薫、おっはよ」
真崎が僕を見ると一見屈託のない笑顔で言った。でも、僕には分かる。内心心配しているんだ。でも、今の僕には答える言葉がない。
「じゃあ、いってらっしゃい。二人とも気をつけてね」
かあさんは門まで見送った。恥ずかしいったらありやしない。
二人でしばらく無言で歩き、角を曲がったときに真崎がつぶやくように言った。
「薫、何かあった? ようすが変だよ。顔色もよくないし」
やっぱり、真崎は鋭い。僕はうつむいてしまった。ああ、これでは、ますます真崎は心配する。それは分かっているんだけど。
「薫、悪い、頼むから顔を上げて」
優しい真崎の声。僕は逆らえなかった。
「やっぱり、俺のことで悩んでる? だって、そうだよね。俺、金曜のことも誘ったし。不安になるよね」
真崎の瞳の中におののくような影がある。
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