第5部

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 担任が入ってきて、皆だるそうにめいめいの席に着く。僕と真崎は教室の右後ろのほうに2列隔てて席がある。倫子ちゃんの席は左手の窓際の真ん中より少し前。困ったことに、倫子ちゃんの姿勢や視線は、僕から丸見えになる。倫子ちゃんの背中。細い。白いブラウスの下の背筋の線まで感じられる。ずっとお姉さんのように倫子ちゃんを慕っていた僕にとっては、こんなか弱そうに見える姿は発見だった。短い朝礼が終わって担任が出ていく。1時間目は数学。担当教師が来るまで間があった。倫子ちゃんがこちら側を振り向く。真崎を見ているのかと思ったけれど、少し角度が違う。そして、彼女が用心しながら僕自身をうかがっているのだということに気づき、身体が固くなった。  休み時間は僕は真崎を中心にした男の子のグループ、倫子ちゃんは女の子のグループ。彼女が僕に声をかけてくるとしたら、やっぱり放課後だろうな。いや、でも、昨日の今日では訊いてこないか。 *  倫子ちゃんの性格は、僕がいちばん知っている。それは自信がある。だって、憧れの女の子だったんだから。すごく相手のことを慮って、無理強いはしない。そういう彼女だから、気の利かない当時の僕は安心してつき合えていたんだ。決定権も彼女にいつもお預けしていた。そう、楽させてもらってて、勝手に憧れだけ持って、僕、いや当時の私はずるかった。  倫子ちゃんの告白を聞いた当初は、『何で好きな人のこと、言ってくれなかったの』という悲しさもあった。まるで友情の片思いを突きつけられたような。でも、それは当然だったと、だんだん思いはじめている。  今の僕は、倫子ちゃんと真崎と、どちらも傷つけずに、そして都合のいいことに、自分も傷つかずにどうにかならないかな、と無理なことをあれこれ考えて悶々とするばかり。踏ん切りがどうしても付けられない。  倫子ちゃんは、あれから二週間、ずっと何も言わずに辛抱づよく待ってくれている。放課後逃げるように教室を出ていく僕に、かえって申し訳なさそうな雰囲気さえ漂わせている。  本当に、薫、つまり僕は情けない奴。時間が過ぎれば過ぎるほど気まずくなるのは分かりきっているのに。    
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