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私は何だか翔がこのまま空へ飛んでいきそうな気がしました。
「……翔、……明日、学校来る、よね?」
翔は両手を広げてキーンと非常階段へと走っていき、そのまま軽く踊るようにトントントトンと下へ降りていきました。
「翔!」
私も追いかけて非常階段を下りていきましたが、私が二階にたどり着いた時には翔はもう校門を出ようとしているところでした。
「翔!」
私はもう一度、名前を叫びました。
「穂奈美!」
翔は嬉しそうに私の名前を叫んで大きく両手をブンブン振って、そのあとすぐに走って行ってしまいました。
それから、翔が学校に来ることはありませんでした。
転校したとか、病気になったとか、翔が学校に来なくなった理由はわかりません。もともと、いてもいないような扱いをされていたので、翔がいなくても学校生活に支障が出るようなことはありませんでした。私はその一ミリも変化のない日々に若干のイラつきを覚えました。
「これはもう、いらないのかな?」
私はポケットに忍ばせていた翔のミュージックプレイヤーをポケットの上から触りました。
『アイネクライネ』がたった一曲だけ入ったミュージックプレイヤー。
この曲が翔の欲しかったものだったとすれば、ひょっとして、あの屋上での名前の呼び合いで翔は満足してしまったのだろうか。
「どんだけ乾いとってん。アホか」
私は翔の無事を祈りながら、空のはるか遠くのほうを見て呟きました。
おわり
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