アイネクライネを盗んで

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 ある日の朝、教室へ入ると先に登校していたクラスメイトが集まってなにやら深刻そうに話をしていました。 「どうしたの?」  私が何事かと慌ててその集団の中に入って行くと、集団の中心にはハルカがうつむいて座っていました。ハルカはメソメソと泣いていました。 「ハルカの飼っていたインコが逃げ出しちゃったんだって」  私はひどく心を痛めました。ペットと言えども家族の一員。それを失うツラさはアメリカから日本へ来るときに友人に託した愛犬のことを思い出すと、十分理解できました。 「ハルカ」  私はハルカを正面からハグしました。ハルカの泣き声が大きくなりました。周りの友達からもらい泣きの声が聞こえてきました。 「よし! 放課後、みんなでハルカのインコを探しに行こうぜ!」  ムードメーカーの健太がみんなに呼びかけました。 「賛成!」 「賛成!」  みんなから次々に声が上がりました。 「これだけの人数で探せばきっと見つかるわ。よかったね、ハルカ」  私は再びハルカをハグしました。ハルカは泣きながらみんなにありがとうを何度も言いました。 「大丈夫だから、泣かないでハルカ」  私はなんとかハルカを落ち着かせようと、ハグをしながら背中をさすりました。他の女子も泣いているハルカがかわいそうと、肩や背中を優しく撫でていました。それでもハルカはなかなか泣き止みませんでした。  そうしていると急に、教室の窓際の一番後ろの席からガタガタッと大きな音が聞こえました。  みんな音のした方へ目をやりました。  あの人が立ち上がってこっちを見つめていました。あの人がほかのクラスメイトに関心をしめしたことに私は驚きました。周りのみんなを見ると、みんなも同じように驚いていました。
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