恋で死なない

1/3
前へ
/3ページ
次へ
 人は恋をしなければ、死ぬのか。  その答えは否だった。  私は生まれてこれまでの十数年間、一度も誰にも好意を抱かないままで生きてきた。興味がなかったと言い換えてもいい。私の中には私しかいなくて、たとえ家族であっても、他の何者の侵入も拒み続けてきた。  自分が本当に思っていることを誰かに明かしたくなんかないし、それが「本当に通じ合った」という証拠みたいに扱われているこの世界は、今すぐに滅んでしまえばいいと思い続けた。  言えなくてもいい。叶わなくてもいい。口に出したあとでそれが潰えた時の痛みに比べれば、そっと自分の胸の中でくしゃくしゃに丸めて、その辺にポイと捨ててしまうことの方が楽だから。  結局のところ、人は恋をしなくても死ぬことはない。  しかし、今はもう何もいらないと思った矢先に出てくるのは、親戚の家でたらふく食べさせられた後のとどめに出てくる饅頭(まんじゅう)とか、そこそこうまくできてしまった読書感想文がコンクールに出展させられることに決まったりとか、そういったことに限った話ではなかったのだ。  私も、ついに恋をしてしまった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加