恋で死なない

3/3
前へ
/3ページ
次へ
*  放課後の生徒玄関、下駄箱の陰。  私が想っていた彼が、同じクラスの女子と肩を並べて校舎を出ていく姿を見た。  ほらね。やっぱり、そうなんだ。  想っているだけでよかったのに。  想っているだけなら、こんなにも悲しまないで済んだのに。  全部、一足遅かった。  やっと踏ん切りがついたのに。  諦めきれずに、やっぱり言わなきゃ、伝えなきゃって思えた時には、彼はもう違う子の恋人になっていた。  もう、いいんだ。  私の「最初の恋」は、これでおしまい。  ここからは、イチからやり直し。なんの縛りも憂いもなく。  好きな相手にははっきりと「好き」って伝えればいい。  私のような弱いやつには、自分の気持ちを押し留めることなんて、できはしないんだってわかったから。  ひたすらに心の中で慈しむのも、恋する気持ちを愛でるひとつの方法。  けれど、わずかな希望に縋りたくなるのが、人間というものだ。  恋をしなくたって、人は死なない。  けれど、永遠に叶わない恋は悪性のウイルスになって、人の心を少しずつ殺していく。  そんなの、嫌だね。  まだ死にたくないもの。  私は、ブレザーのポケットに入れてあった恋文を握り潰した。 /* end */
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加