まどろみ

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まどろみ

「あーおーい。朝だよ」 「ん……」  目を擦ると彼氏が少し笑みを浮かべて頬を突っついていた。そしてそのまま頬に唇が落とされる。柔らかい唇の感触と共に徐々に頭が覚醒していく。  夢……か。前の彼氏の夢。  今の彼氏は珍しく長続きし、なんと同棲までした。ほんの小さな好奇心から付き合い始めた彼。居心地は。 「おはよ」  さわやかにそう告げると彼はさっさとベッドから降りた。その拍子に毛布がハラリと落ち、私の裸体が晒された。何人ものの男性を魅了した身体はエネルギーを感じない。 「朝ごはん出来てるから」  と、軽く告げられた。私はありがと、とだけ返しベッドに散らばった服を集めて裸体を仕舞う。情事の名残はもうどこにも残っていない。  私と彼──怜也(れいや)は似た者同士だ。私も彼も軽くは話せない過去を抱えている。私は絶対に許されない過去を、彼は親からのネグレクトを。  二人とも重石を抱えてずぶずぶと社会に沈んでいる。  食卓へ向かうとトーストと目玉焼き、サラダが一人前置いてあった。いつも通りのことだ。怜也は私の向かいに腰掛けると微笑んでコーヒーを口にした。 「怜也、朝ごはんたべないとだよ?」 「俺はいい。朝は食欲ないから」  予想通りの回答に苦笑しつつ、目玉焼きをトースターに乗っけた。 「せめてサラダ食べなよ。それに薬飲むのに何かお腹にいれなきゃ」    と、サラダを取り分けると諦めたかのように怜也はドレッシングを手に取った。  怜也は薬を飲まなければもっと壊れてしまう。半壊気味なのをなんとか保っている状態だ。サラダをゆっくりと咀嚼しながら怜也は顔を上げた。 「ねぇ、あおいは今日出かけるの?」 「いや」 「やったぁ、今日はずーっと一緒だね」  くしゃっと屈託のない笑みを彼は浮かべた。怜也の今まで注がれなかった愛情を求めるかのようなアピールも、情緒不安定さにもすっかり慣れている。  
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