まどろみ

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 怜也との生活は案外楽だった。お互い相手がこれ以上踏み込んでほしくないラインを越えないように話している。そのせいか、私は聞かれてもいないのの身の上話を軽く話してしまった。  私の本質は言ってない、はずだ。けれど──  そっと怜也を見上げると「うん?」と首を傾げた。そして脈絡もなくいつもの言葉を口にする。 「あおい、大好き」 「怜也のことも好きだよ」  テンプレートのような会話。決まった言葉を返すと愛を求める怜也はほっとしたような笑みを浮かべた。そんな怜也からそっと目を背けシンクへ食器を持っていく。ジャーっと水が皿を叩きつけた。  怜也の長所であり短所は勘がいいことだ。何も言わなくても伝わる反面、私の奥底を見透かすような瞳を向ける。彼の何もかもわかっているところが初めは楽に感じていたが、今はそうでは無い。私のことをこれ以上知らないでほしい。理解しないでほしい。そんな意識が私の中に蔓延っている。  怜也はとてもいい人だ。情緒不安定だったり、過剰なほど愛を求めたがるが、基本的に温厚だしこんな私の対しても優しく接してくれる。薄汚れた私のことを受け入れてくれている。を傷付けることなど当然のようにしない。こんな自分にはもったいないくらいにいい人だ。  でも、私は違う。ドロドロとしていて平気な顔をして人を傷つける。 『あおいさん、相手のことをもう少し考えましょう』 『自分がされて嫌なことはしてはいけません』  何度そう言われたことか。  改善を試みた時だってある。でも、根本的な問題として私は自分のココロも相手のココロもなにも分からなかった。──だって感情がないから。私は根っこから冷たい人間だ。  一方、怜也は繊細な人だ。鋭いナイフを胸に秘める私とは絶対に並ばない方がいい。彼を傷つけるのは偶然ではなく必然。約束されている未来だ。  怜也は知りすぎた。私の嫌なところを知っている。それなのに穏やかな表情をして私を見ている。愛を必死に捧げてくる。  絶対に交わっちゃいけない。    怜也の向かい側にゆっくりと座った。    何故か胸がギュッと苦しいけれど。 「ねぇ怜也」  浅くなる呼吸。お互いのためにも。 「私たち別れよう」  離れ離れになった方がいい。  お互いのために、離れよう。
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