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空気が急激に重くなった。怜也の表情から明るさは消え影が落ちている。 薬を飲み忘れた時よりももっともっと酷い顔だ。
怜也はいつも私がやりたいことをやらせてくれる。今はシたくない、といえばキスもしてこないし、買い物に行きたい、といえばイヤーカフをしながらでも着いてきてくれる。
だから、今回もいいよね? と、ごくりと息を呑んだ。お願いだから、『いいよ』っていつも通りの笑みで言ってほしい。数秒間の沈黙の後、怜也は震えた声で自分を責めた。
「……俺、なにか悪いことした? 俺、あおいが大好きだよ。でも……嫌だったんだよね? なんか。ごめん。直すから」
「ううん。……怜也だって知ってるでしょ。私が酷い人間だって」
ヒトゴロシ。アクマ。レイケツ。
何度罵声を浴びせられただろう?
私は酷い人間なのだ。クラスメイトの子を無意識に傷付け不登校にさせた。そしてその子はもう生きていない。
私は人殺しだ。殺人鬼だ。
「……深くは聞かないけどあおいが何かをして、ずっと十字架を背負ってるのは感じたよ」
「そうだよ。ヒトゴロシだから私は」
人だけじゃない。植物だって、クラスで飼ってた亀だって。全部死んでしまった。数えきれないほどの十字架を背負っている。背負わされている。
「……俺はね、あおいが願うことならなんでもやった」
ゆっくりと怜也は顔を上げた。長めの前髪がさらりと揺れた。
髪の影からは普段の表情からは想像出来ないほど冷たい面持ちが出てきた。──何故だろう、背筋がぞくりとする。
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