宝石の弟子と優し過ぎた師匠

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「魔法学院……ですか?」  ある日村長に呼び出されたカナンは戸惑いながらテーブルの上の書類を見た。 「この間学院の人が来ていただろう? その時にタクト達を見掛けたらしくてな。ぜひ学院に招きたいと、また来てくれたんだ」  村長の隣に立つ黒いローブを着た男――学院の使者が鷹揚に頷く。 「君達は非常に優れた魔力を持っている。学院で然るべき教育を受ければ必ず素晴らしい魔法使いになれるだろう」  そう言うと使者はカナンの横に立っているタクト、ルー、ロイを順番に見遣った。 「こんな辺鄙な場所で人生を終えたくないだろう? 学院に来た方が君達にとっても良い筈だ」  鼻に付く物言いにタクト達は不快そうに眉を顰める。そして窺うようにカナンを見上げた。  いきなりそんな話をされて困惑するのは当然だ。カナンは彼等を安心させるように微笑むと口を開いた。 「俺は良い話だと思うよ。学院に行けばちゃんとした魔法の勉強が出来る。君達は幸せになるべきだ。だから行った方が良い」  本音を言えば三人がいなくなるのは寂しい。しかし魔法の才が平凡な上に指導も素人なカナンが教えるには限界がある。カナンの元にいては彼等は成長出来ない。幸せな将来に手にする事も出来ないのだ。  カナンの言葉に三人の真ん中にいたタクトが左右にいるルーとロイを見る。そして頷き合うと、凛とした眼差しで使者を見た。 「……カナンも学院に行くなら俺達も行く。それが出来ないなら学院には行かない」 「! タクト、何言ってるの!」  予想だにしない返答にカナンは動揺する。他の二人はどうなのかと見れば、当然とばかりに頷いていた。 「当たり前だな。カナンがいないなんて有り得ねえよ」 「珍しくロイに同感だね。カナンを一人残すなんて有り得ないから」 「ちょっと皆! 魔法学院は優秀な人間しか入学出来ないんだよ。俺は入学出来ないって!」  無理難題を言う三人にカナンは慌てた。テーブルの上にあるのはカナン以外の三人の入学許可証。カナンは入学出来ない。  けれど三人は引くつもりがないらしい。カナンを無視して使者の返事を待った。  使者がカナンを見遣る。そして深く溜め息を吐いた。 「……分かった。彼も学院に迎え入れよう」 「ええっ……!」  驚くカナンを他所にどんどん話は進んでいき、彼も学院に行く事になってしまった。 「どうして俺まで……」  家に帰ったカナンは、未だに自分が学院に入学する事が信じられなかった。 「オレ達が行けるなら、カナンも行けるに決まってるだろ」  椅子に座り込み狼狽える彼にロイが事もなげに告げる。 「大体学院の態度が気に入らない。カナンを差し置いて僕達だけ迎えようとするなんて。僕達よりずっとカナンの方が凄いのに」 「ルーまで!」  普段カナンに対して辛辣なルーまでそんな事を言うものだから、混乱してしまった。  頭を抱えて唸っているとタクトが顔を覗き込んでくる。 「……カナンは嫌か?」 「タクト……」 「俺は、いや俺達はカナンと行きたい。カナンが一緒じゃなきゃ駄目なんだ」  縋るような青玉の瞳にカナンは言葉を詰まらせる。  顔を上げてルーとロイを見れば、二人共表情は違えど不安そうにカナンを見つめていた。  そうだ、いきなり学園に来るように言われて不安に決まっている。三人が相応な幸せを得られると浮かれて気付かなかった。  心細げに揺らぐ三対の宝石にカナンは浅はかな己を責めた。 「そうだね……」  椅子から立ち上がると三人に笑顔を向ける。そしていつものように両手で三人の頭を撫でた。 「うわっ!」  三人が慌てた声を上げるが気にしない。カナンは自分の気が済むまで彼等の頭を撫でた。 「俺も皆と一緒にいたい。……だから行くよ、魔法学院に」  三人を解放して伝えると彼等は嬉しそうに目を輝かせた。 「本当か、カナン!」 「そうこなくっちゃね」 「やったー!」  三者三様に喜ぶ彼等にカナンは密かに目を細める。  カナンは三人が喜ぶ顔が一番好きだった。宝石のように美しい瞳がより一層輝くからだ。  生まれた時から理不尽な目に遭ってきた彼等だ。これからは今まで以上に幸せになって欲しい。  それがカナンの願いだった。
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