宝石の弟子と優し過ぎた師匠

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「やっぱり、俺が狙いだったんだね?」  相対する魔女の継承者にカナンは口の端を上げた。  二人は森から抜けて砂漠地帯にいた。  周りは氷の障壁で覆われている。これは魔女の継承者ではなくカナンの魔法によるものだ。 「これで、巻き込まずに済む……」 「やっぱり君は……」  彼女の呟きに剣を抜いて構える。 「助けて……」  縋るような赤い瞳にカナンは悲しげな表情を浮かべた。  その時彼女の望みが分かってしまった。そして自分に待ち受ける運命が分かってしまった。  けれど、もうカナンはその運命を受け入れるしかない。  深く息を吐く。そして一気に彼女との距離を詰めた。  カナンがいなくなってからタクト達は動けずにいた。 「くそっ……!」  傷が治っても疼く腕を押さえてタクトは歯噛みする。他の二人も黙り込んで静かだった。  その時近くから葉擦れの音がした。  タクトは剣を手に取り気配を探る。その音はどんどん近付いて来た。  ルーとロイもいつでも動けるように構える。 (まさか、カナンはーー)  最悪の結末が脳裏に過る。  目の前の茂みが揺れる。タクトが剣を抜こうとした時だった。 「皆!」  聞き馴染みのある優しい声が耳朶を打つ。 「カナン!」  茂みから現れたのはカナンだった。頭に付いた葉を落としながらやって来る。 「お待たせ。心配掛けてごめんね」  眉を下げて柔らかい笑みを浮かべるのは間違いなくカナンだ。 「カナン……?」  あんな化物に一人で立ち向かったのだ。二度と会えないのではと恐ろしくて堪らなかった。  涙が溢れて視界がぼやける。強くなって成長したつもりだったが、まだ自分は子供なのだと思い知らされた。 「カナン!」  タクト達はカナンに駆け寄ると一斉に抱き付く。 「うわっ!」  三人の勢いにカナンは後ろに倒れる。そして苦笑を浮かべると三人の頭を撫でた。
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