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「一緒にいたいって言ったのは嘘だったのか!」
柵の内側で三人の少年が外側にいる青年に叫んでいる。
青年は彼等に微笑んだ。きっと裏切られたと思っているのだろう。
――けれど、もう一緒にはいられないのだ。
「起きろ、カナン」
体を揺すられて青年――カナンは目を覚ました。
まず見慣れた天井が視界に映る。次に金髪に青玉の瞳を持つ十歳程の少年が顔を覗き込んできた。
「おはよう……」
今日は上手く起きられなかった。カナンは寝ぼけ眼にそう思いながらベッドから体を起こした。
「やっと起きたか。今日はオレ達の勝ちだな」
「全く、僕達よりも早く起きる時もあるのに。どうして寝坊する時もあるのかな?」
少年の横には彼と同い年である二人の少年がいた。赤毛に琥珀の瞳を持つ少年は嬉しそうに胸を張り、銀髪に翡翠の瞳の少年は呆れた視線をカナンに寄越す。
「ごめん。俺としても直したいんだけど、こればかりはどうにもならなくて……」
苦笑いを漏らすとカナンは彼等を見遣った。
「皆、こっちにおいで」
手招きをして三人をベッドの横に並ばせる。そして――、
「おはよう、タクト、ルー、ロイ! 自分で起きられて偉いね!」
「うわっ!」
勢い良く両手で三人の頭を一気に撫でた。
「頭、ぼさぼさだ……」
「真ん中にいたオレが一番酷いぞ。つか、そうなるって分かっててオレを真ん中にしただろ!」
「だって真ん中にいると頭が鶏みたいになるんだもん」
黙って髪を直すタクトに、文句を言うロイ、そしてロイの文句を受け流すルー。
「昔は素直に喜んでくれたのにな……」
嬉しそうに撫でられるかつての三人を思い出し、少し寂しい気持ちになる。
「もう撫でられて喜ぶ年じゃないぞ、俺達」
「ええっ……!」
タクトに追い打ちを掛けられたカナンは肩を落として項垂れた。
カナンはタクトと、ルー、ロイの三人の少年と暮らしていた。青玉の瞳の少年がタクト、翡翠の瞳がルーで、琥珀の瞳がロイだ。皆宝石のような瞳で、幼いながらも整った容姿の持ち主だった。
ちなみにカナンは栗毛色の髪に薄茶色の瞳と平凡な青年。タクト達とは似ても似つかない。
尤も四人共全く似ていない。理由は単純――彼等に血の繋がりがないからだ。
「じゃあ、今日も魔法の練習しようか」
朝食を食べ終えた後、四人は家の近くの森にいた。
「使いこなせれば、いつか必ず役に立つ。だから頑張ろう」
カナンはそう告げると、三人に魔法の指導を始めた。
彼等は元々孤児だった。ある日近くの村に捨てられているのを発見されたのだ。初めは村にある小さな孤児院にいたのだが、タクト達は膨大な魔力を持っていた。その所為で村人に恐れられ、孤立してしまったのだ。
――そんな時に白羽の矢が立ったのがカナンだった。
彼は魔法使いの末裔で魔法を使える唯一の村人だった。そして三人を自分の家に住まわせ、魔法を教えるようになったのだ。
当然最初は三人共カナンに心を開かなかった。彼等の境遇を考えたら当たり前だ。その為無理に距離を詰めたりせず、彼等が安心して暮らせるよう尽力した。
そのお陰か分からないが、やがて三人は笑顔を見せるようになった。未だ村人達にはぎこちないが、カナンには懐いてくれている――気がする。
今では四人での共同生活も慣れて、彼等の将来の為に魔法を教えるようになっていた。
尤もカナンは膨大な魔力がある訳でも、魔法の腕が卓越している訳でもない。教えられる事は高が知れている。それでも少しでも彼等の役に立てたらと、懸命に魔法や剣技を指導していた。
「タクトは凄いよね、魔法と剣どっちも使いこなせて」
「ルーこそ、魔法の正確さは三人の中で一番だろ」
「ねえ、オレはオレは?」
褒め合う二人の間にロイが割って入る。そして期待の籠った眼差しで二人を見た。
「ロイは体力があるよな。いくら剣を振っても息が切れなくて羨ましい」
「確かにこの中じゃ一番力持ちだもんね。……でも、もう少し魔法も頑張った方が良いんじゃない? 勉強が苦手だからって魔法の勉強もさぼっちゃ駄目だよ」
「有難うタクト! でもルーは何で最後駄目出しなんだよ!」
来たばかりの頃はこんなに和気藹々としていなかった。そんな三人にカナンまでも嬉しくなる。
今までカナンも一人だった。寂しくなかったと言えば嘘になる。しかしタクト達が来てからはすっかり賑やかになった。
「ずっとこんな毎日が続けば良いな……」
三人を見守りながらカナンはそっと呟いた。
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