真珠の出荷

1/1
前へ
/1ページ
次へ
孔が開き、目尻が下がる。 それによって目が大きくなったように見える。 瞳に水気も帯びてくる。 その水を、電灯の光が反射させている。 普段は横長の目を大きく丸くキラキラさせながら、彼女は僕を見ていた。 彼女の中に入りながら、僕は上から彼女を見ている。 変化した彼女の目を、僕は美しいと思った。 初めて真珠を見た人類が、その美しさに磨きをかけたいと思ったように、 僕も彼女の目をさらに美したいと思った。 痛くない?と訊ねると、痛くないと彼女は言った。 それを合図に一番奥まで入っていく。 さっきまで堅く閉じられていた口が開き、ああっと短く空気を吐き出した。 僕が中で動くと、彼女の目はさらに美しくなった。 もっと大きく、もっと丸く、もっとキラキラさせたい。 その衝動だけで、僕は激しく動いていた。 気持ちいいと彼女は言った。 その目の美しさは最高潮に達している。 最後の仕上げに取り掛かる。 人類は真珠を貝から取り出し、そこに糸を通した。 真珠のネックレスの完成だ。 完成品は箱に仕舞われる。 僕らはその美しさを見ることができない。 寂しく思う。 またあの美しさを見たいと思う。 だから、僕らはまた真珠を磨き始める。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加