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仕事が終わって、私はいつもと変わらずドアを開けた。ドアはすんなりと開いた。
そして鉢合わせたのだ。
──この、見知らぬ男と。
「すいませんすいません! 警察だけは勘弁してください!」
私は必死に床に頭を擦り付けた。なんたる失態! あと一歩のところだったのに! そう、あと一歩で「不法侵入」から「空き巣」になるところだった。
「あのー、何か勘違いしてるみたいなんで言うんですけど」
パーカー姿のさえない男は言った。
「僕も同業者ですよ」
「はい?」
私達は能面のような顔で向かい合った。
「マジで?」
「マジです」
はあー……と、私達は安堵の息をついた。家人が帰ってきたと思ってマジでビビった。それは男もそうだったようで、心底安心したとばかりに床に転がった。
そこへ──
ガチャリと音がして、ジーンズを履いた女の子が足早に入ってきた。
「すいませんすいませんすいません!! 勘弁してください!!」
「出来心なんで。初犯なんで! どうかご慈悲を……」
2人して土下座する。これでもかと言わんばかりに床に頭を擦り付ける。なりふりかまっている場合ではないのだ。
「あ、お2人も泥棒さんだったんですね!」
私と男は声を重ねた。
「え?」
二度あることは三度あるとは言うけれど、こんなに集まるものなのか?
この奇妙な状況に、私の頭を某テレビ番組のテーマソングがよぎった。「次はあなたかも」の「あなた」に自分がなるとは思わなかった。
「いやー、SNSで防犯のことまわってきてー、じゃあ逆をついてみようって好奇心でつい」
若いって怖い。
「物騒な世の中ね……」
「あなたが言いますそれ?」
たしかに。
男がいそいそと立ち上がる。
「なんか萎えました。僕、他に行きます。それじゃ、気をつけて」
そう言って男は出ていった。
「じゃあ私もそろそろ行こうかしらね」
まとめておいた獲物を持って立ち上がろうとすると、そこには何もない。
すぐにわかった。
「あんの泥棒!!」
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