第一話 死神と女の子

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第一話 死神と女の子

死神の仕事を初めて半年、またひとつ仕事が入った。 上から連絡が来て、今度は女が死ぬらしい。 なぜ死ぬのかは俺も分からないが、俺たち死神はその女を見届け、魂を送ってやる役割を担う。 今まで色んな奴らを見てきたが、最期に涙を流すもの、幸せそうにするもの、様々だった。 だが俺が担当することになったこの女は、初めて、死に対して恐怖を持たない奴だった。 (ここか? この家か?) ふよふよとさまよいながらようやく着いたとある一軒家。 紙で書かれた拙い情報を元にようやくたどり着いたところだ。 (ひっひっひ。あと一ヶ月で死ぬなんて伝えたら、どんな顔をするかなぁ。いつも見るあの恐怖の表情がたまんねぇんだよなぁ。ここは一軒家なのか。珍しいな。) ほとんどが病室で最期を迎える人が多かったため、一軒家は珍しい。突然死でもするのだろうか? (えーっと、歳は16で性別は女。黒髪のみでぃあむ? でいつも部屋にいる、のか。) 情報の紙を頼りに窓からそれっぽい奴を探し、とりあえず目星をつけた部屋の窓を叩いてみる。 「おい女、開けろ。」 するとカーテンを開け、不思議そうに怪訝そうに見つめる女がいた。 (こいつだ。) 「あなた誰? なんで浮いてるの?」 「俺は死神。早くこの窓開けろ。」 「はぁ? 不法侵入者? 人が空を飛ぶなんて、私夢でも見てるのかな。」 「おい! ちが、違うって、早く開けろ! 俺はお前を迎えに来たんだよ!」 「迎え?」 「そう、お迎えだよ。お前はあと一ヶ月で死ぬのさ!」 窓越し、声の籠ったような音で会話を続け、ようやく俺の言いたいことが言えた!と自信満々に言って見せたが、彼女は恐怖することも無く冷静に答えた。 「そう、お迎え……お迎えね。それなら話を聞かせて貰えないかな。」 「えっ、お、おう。」 窓が開かれ、俺は部屋に招き入れられる。 「君、死神なの?」 「だからそう言ってるだろ。この輝くカマを見やがれ。」 (どうだ、恐れろ!) 「へぇ、凄いね。本物なんだ。」 (んだよ。) 「それで、私があと一ヶ月で死ぬってほんと?」 「あーそうだよ。だからお前には俺が見えるんだろ。」 「そっか、じゃあ他の人には見えないんだ。」 「そうだよ、信じたか?」 「うん、信じた。」 そう言って彼女は微笑んだ。 (こいつ、自分が死ぬって言われてんのになんでこんな嬉しそうなんだよ。つまんねぇ。) 「君はさ、なんで死神なの?」 「なんでって、俺は別になりたかったわけじゃねえよ。やらされてんの。」 「ふうん。なんで?」 「知るかよ。」 本当は知っていたけど、そんなのこいつに言う義理なんてなかった。 「てか今昼だぞ。お前"がっこう"とやらは無いのか。」 この位の歳の奴も何人か見てきたが、そいつらは昼くらいになると皆その"がっこう"に行っていた。そして夕方頃に返ってくる。 病院にいるやつは体が動かないらしくて、行く奴は少なかったけど、その代わりお見舞いに何人か来てるやつがいた。 そいつらは"がっこうのともだち"と言うらしい。 「学校かぁ……。私ね、学校嫌いなんだ。」 「嫌い?」 「うん、楽しくないから。行きたくないから行かないんだ。」 「行かなくてもいいのか?」 「自由だよ。私は昔から行ってない。でも本当は行かなくちゃだめなんだよね。お母さんもお父さんもそのせいか分からないけど凄く機嫌悪いし。」 「ふーん。その、"がっこう"は面倒くさそうだな。」 「うん、すーっごくめんどくさいよ。死神くんもない? 人付き合いってやつ。」 「俺は他の奴らと馴れ合うことはしねぇからな。」 「いいなぁ。私も死神くんみたいに強かったらもっと違ったんだろうな。」 強いと言われてつい嬉しくなる。 「どうせ死んじゃうんだもん。死神くんは私と友達になってよ。」 「ともだち?」 「うん、仲良くすること。」 「おう、いいぜ。」 「やったあ。断られるかと思ったのに。」 死神はなるべく死期の近い人間の言葉を叶えてやれという決まりがあるのだ。 「じゃあねじゃあね、死神くんは何か私に質問とかない?」 「質問? うーん、難しいこというな。じゃあ、なんでがっこう行かないんだ?」 「あはーそこ聞いちゃう? まあ死神くんだから話すけどね。さっきも話したけど、学校って凄くめんどくさいところなの。特に女子はね、派閥があってさ。特定の女の子に気に入られなくちゃならないの。気に入られたらハッピーハッピー。毎日楽しいし学校行くのも苦じゃない。けどね、私気に入ってもらえなかったんだ。というか、元々は気に入ってくれてたんだけどね。あ、私だってその子のこと凄く好きだったし。でも私がその子の嫌だなって思うところたくさん出てきちゃって。それを本人に言ったら嫌われちゃった。」 「気に入ってもらえないとハッピーじゃねぇってことか?」 「そう。死神くん理解が早くて助かる! 私説明下手だからさ。」 「そうか?」 「うん。話し相手が死神くんで良かった。」 やっぱりこいつ死を恐れてない。俺はなんでこんな呑気な話をしてるんだ。 もっと死後の事とか、死ぬまでにやりたい事とか、そういう話して俺が叶えるんじゃねぇのか? 「ある日ね、私その子にすごーく嫌なことされてさ。それやめて欲しいって言ったの。そしたらね、その子なんて言ったと思う? なんで怒ってんの、面白いんだけどって言われたの。何が面白いの?って感じじゃん。」 「なんだそれ。ひでぇな。」 「酷いよね。私が真剣にやめて欲しいって言ってることに対してなんでそんな言葉が返せるんだろうってほんとに思うもん。他にもね、あの、学校ってダンスっていう授業があるんだけど。」 「だんす……。あ、踊るやつか。」 「そうそう。その授業で好きな曲で踊っていいよ〜みたいな感じで、皆で曲選びをして、この曲でいいー?って、いいよー。って感じで2曲選んだのね。メドレーにしたくて。」 「メドレー?」 「2曲を繋げるの。」 「へぇ。すげぇな。お前が作るのか?」 「うん! よくわかったね。私が作るって言うか作ったの。2曲をうまーく繋げてね。それでね、皆に見てねーって送ったのに、誰一人も見てくれてなかったの。普通に悲しいよね。私頑張ったのにって思っちゃって。」 「そうだな、お前は頑張ってんな。」 「でしょー? 死神くん好き〜〜。」 「だろ!? 俺良い奴でかっこいいだろ!」 「うんかっこいい!」 こうやってぼーっと話聞くだけでも楽しい奴はいるんだな、と俺はしみじみ感じていた。 だがこいつの話があと数時間もかかるなんて思いもしなかった。
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