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よく令嬢が着ているアレの構造
みっかご。
まったくやったことのない仕様を。
納期の確認、大事。なによりも大事。
ばかばかばか私のばか。こういうところが、前世のOL仕事でぱっとしなかった一因だろう。
どうしよう。縫い慣れた振り袖だって四、五日かかるのに。
だけど、兄妹ふたりは、すがるような潤んだ眼差しでこちらを見つめている。子犬のように澄んだ瞳に見つめられると、いまさら「できません」とはとても言えない雰囲気だ。
くそう。育ちのいい人たちのキラキラオーラめ……
私は内心心臓がばこばこいってるのを隠しつつ、言った。
「ええと、ではまず、布地と、それからお手持ちのドレスを見せて頂けますか? 参考にしたいので」
「もちろんよ。ちょっと待っててね」
エステル様はすぐにドレスを数着持ってきてくれた。赤、青、小花柄、パステルブルーなど。
もちろん、前世でもこっちの世界でも貴族令嬢のドレスなんてものに触るのが初めてな私は、思わず声を上げていた。
「こういうドレスって、三つにわかれてるんですね」
「あら、知らないの?」
「あ、確認です。声出し確認! 確認しながら、イメージを固めていくんです」
幸い、エステル様は「そう、さすがね」と納得してくれた。危ない危ない。
ドレスは、世界観と同様に、一応十八世紀フランスのものをモデルにしているようだった。
スカートがたっぷり横に膨らんだこの形、ローブ・ア・ラ・フランセーズというらしい。
ローブ・ア・ラ・フランセーズは、ローブ、ストマッカー、ペチコートで構成されている。
「まずはローブね」
エステル様が、ローブと言われる部分を見せてくれる。
私はてっきり、スカート部分と胴体部分はくっついてワンピースになっているのだと思っていた。前世の漫画でも、ほとんどそうなっていたと思う。
しかし実物のローブは、長く足下まで続く上着だ。
それが着用したときスカートに重なって、あの舞台の幕みたいな見た目になる。
「ろ、ローブ、ヨシ!」
「これがストマッカー」
続いてエステル様は、胸当てを持ち上げた。
金太郎みたい、といえばイメージしやすいだろうか。
そう、胸を覆う部分も、縫い付けられてはいないのだ。このストマッカーと呼ばれる金太郎部分をローブにピンで留める。そうすることによって、少々お太りになられてもサイズ調整が可能なのだという。
「それに、ローブとストマッカー、ペチコート、それぞれを本来のセットとは別のセットと組み合わせるとことで、アレンジもできるのよ」
「なるほどー」
布が高価な世界だから、着られなくなったらポイ、というわけにはいかない。それゆえの工夫だろう。
「ストマッカー、ヨシ!」
「そしてペチコート」
前世ではペチコートと言えばスカートの中に履くひらひらしたものを指す言葉だったけど、こちらではスカートそのもののことを指す。ややこしいから、私はスカートと呼ぶことにしよう。
「ペチコート(スカート)、ヨシ!」
本当はよく知らないことをごまかすために言い出した確認だったけど、おかげで構造をつぶさに観察することができた。
そして私は、あることに気がついていた。
「こ、これは……!」
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