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 ほどほどに胃袋を満たせる分量の昼食をコンビニで購入し、イートインで食べた。  お茶を飲み、ひと息ついてから再び帰路を進む。次の機会にはもっとゆっくりできるところで昼食をとるのもいいかもしれない。    K駅近くまでやってきた。  特に目的なく家電量販店に寄ったあと、表通りを外れて知らない道に入る。  帰宅ルートはその場その場の気分で変わる。自宅を目指すというより、自宅の方角だけ意識して気の向くままという感じ。  路地を曲がると雑貨店があった。同じ通りには喫茶店もある。どの店も雰囲気があって通り掛けに目が向いた。  その通りから気まぐれに二つ曲がった先に花屋があった。    俺は思わず足を止めた。  花や花屋に興味があったわけじゃない。これまで意識したことすらなかったにもかかわらず、興味をひかれ足を止めるに至ったのは、その外観に異世界情緒を感じとったからだった。  現代に生きる魔法使いが人知れず通っていそうな店との邂逅に胸がさわさわした。  軒先に並ぶ色とりどりの花や緑は建物の輪郭を縁取っているようにもぼかしているようにも見える。店内には暖色の光が灯っていた。  日常に潜む非日常の匂い。扉を開くとファンタジーが広がっていた、なんて経験は一度としてないけど、こういうわくわくするものに出くわした瞬間の心地よさは何度経験しても飽きない。  車一台通れる幅の道を一本挟んで眺めていると、向かいにおばあさんが歩いてきた。花屋の前で足を止め、どこか慣れた様子で軒先の商品を眺める。背筋は伸びていて、品のある温和そうな人だ。  店内に入ってみたさはある。しかし花を買う予定もない身ではかなり入りづらい。  そうだ。花が入り用になればここを利用しよう。そんな日がくるのかわからないが今から楽しみだ。  そろそろ行こうかというときだった。  おばあさんが顔を上げ、店内のほうへ目をやった。すると中から店員らしきショートボブのお姉さんが出てきて――目を疑った。    俺の好みを綺麗に詰めこんだかのような容姿と雰囲気。  毛先を無造作にハネさせたその髪型もお姉さんの容貌にぴたりとはまっている。すべてがはまりすぎていてちょっと現実味がない。  ぱっと見だから脳がいろいろと補完しているのではないか。認めたくないのではなく信じられなかった。俺は目を凝らして欠点を探した。  ……やっぱりどこを単体で見ても、どう総合して見ても、幻滅の悲哀の味わいようがない。  お姉さんは心が綺麗じゃないとできないだろう笑みを浮かべながら話し始めた。和やかな雰囲気が伝わってくる。頭の片隅でおばあさんは馴染み客なんだろうなと考える。  じろじろ見てはいけない。でもあとほんの少しだけ見ていたい。  葛藤にもみくちゃにされながら、目に焼きつけるようにお姉さんを見続ける。  気味悪がられるぞ。さすがにこれ以上は……。  頭ではわかっていても、目も首も足もがっちりと掴まれたように身動きが取れなくなっていた。脳と脊髄の接続が切れてしまったかのようだった。  できることならもう少し近づきたい。遠目だからパーフェクトに見えるのかもしれない。  そのとき、ふいにお姉さんがこちらを向いた。視線がかち合う。時計の針が止まったように感じた。  数瞬後、お姉さんは訝しむ様子もなく、ただにこりと会釈した。 「よければ店内もどうぞ」  俺は会釈を返し、咄嗟に用があるふうを装いその場を逃げた。  家に到着する頃には日はほとんど沈んでいた。
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