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 駅前のファストフード店に入った。  ハンバーガーのセットを購入し、テーブルに向かい合って座った。ぽつぽつ話しながら食べ進める。当たり障りのない会話が途切れたところで、ちょっとばかり気になることを聞いてみる。 「家この辺なの?」 「歩いて十分かからないくらいかな」 「近いね」  花屋さんの近くかもしれないのか。知り合いって可能性も。少なくとも店の存在は知っているはずだ。 「このあと来る?」  冗談ぽく言うが冗談ではないのだろう。興味を示せば「冗談だよ」と返してくれない不気味さがある。そうはいっても、そういうことをさらりと、それも軽薄さを感じさせずに口にできるのはちょっと羨ましい。 「警戒しなくても今日お姉ちゃんいるから大丈夫だよ」 「何が?」  ふふんと芳野は笑う。  芳野は基本的にぐいぐいくる。徐々にそうなったわけではなく、初めからずっと今みたいな調子だった。気が多くて軽そうな子だと思っていた当初とは打って変わって、最近は印象が変わってきている。  芳野は紙ナプキンで口を拭い、それからドリンクのストローをくわえた。喉を二度上下させたあと、ドリンクをトレイに戻す。 「今も好きな子いないの?」  いい機会だ。話してしまおう。 「いるよ。好きな人」 「そうなんだ」  芳野はもう一度ドリンクを手に取り、一口飲んだ。 「年上の人?」 「うん。たぶんだけど」 「年上が好きだったりするの」 「そういうわけじゃないよ。たまたま」 「そっか」  芳野は睫毛を伏せ言った。  再び俺を見る。 「要くんさ」 「うん」 「ちょっと前からずっと、私を遠ざけようとしてるよね」  どきっとして、思わず芳野から視線を外してしまう。その通りだった。  気圧されそうになるのをぐっとこらえ、俺は芳野を見た。 「それ、無駄だよ」  悪役みたいなことを言う。茶化してしまいたいが芳野の目はまっすぐで、真剣で、とてもそんなことはできない。 「変に期待させないためにそうしてくれてたんだよね」 「……どうなんだろ」 「そのくらいで諦めたりしないよ」  ぴしゃりと言った。 「ていうか私はね、要くんが振り向いてくれなくてもいいと思ってる。その好きな人との関係を邪魔しようとも思わない。大事なのは私が要くんをどう思ってるかだから。もちろん一緒にいられるにこしたことはないけど。つまりね、大好きなの」  店を出ると雨はほぼやんでいた。 「今日は話せてよかった。すっきりしたよ。ありがとう」  俺はごめんと思った。  もしお姉さんに恋愛対象として見てもらえなかったとしても拒絶だけはされたくなくて。可能性は閉ざされたくなくて。  だから今日あの場で芳野の誘いを断ったら、俺が芳野にしていることがそっくりそのまま返ってきそうな気がした。  俺はそんな理由で誘いを受けた人間だ。どうだ、かっこ悪いだろ。このことを知ったら芳野はさめるだろうか。  じゃあまた。手を振る芳野と店先で別れ、駅に戻った。  タイミングよく滑りこんできた電車に乗ると、車内はがらがらだった。座席に腰を下ろし、膝の上に鞄を置く。足元からじんわりと温かい熱が伝わってきた。  「つまりね、大好きなの」  あんなに強く芯の通った女の子が俺のことをおもい続けてくれている。改めて考えるとなんだか不思議だ。  芳野の持つそれが恋心じゃなければよかったのにと思った。
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