泥棒ジェイ

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 他人の感情に敏感で、自分に向けられる悪意が怖くて引きこもりになってしまった私を救ってくれたのは、一人の泥棒だった。  鍵もかけてないのに誰も入ってこなかった部屋の戸が開いた。 「幽霊かと思ったぞ! いるならいると全力でアピールしろ」  その物言いに思わず吹き出してしまった。 「人がいると思わなかった。すぐ出て行くから」  思いがけなく優しい口調に自分でも驚くほど号泣してしまった。 「クソみたいな俺にも人を笑わせることが出来るんだな」  泣きやんだ私に泥棒はぽつりと呟いた。 「じゃあこういうのはどうだ」  泥棒は声真似が得意だと言って、私の声で下手くそな歌を歌った。 「わたしってそんな声なんだ」 「ああ。いい声だな」  そんな風に言われたことが無く、嬉しさで顔が熱くなった。泥棒は本棚を興味深そうに眺め、その間もヘンテコな歌を歌い続けていた。 「何の歌?」 「小学校の校歌だよ」 「変な歌詞だね」 「うろ覚えだからな。お前の小学校の校歌も歌ってみろよ」 「歌えないよ」 「音痴なのか」 「泥棒のあなたよりはマシ」 「言うねえ」 「わたし、小学校に行ってないの」  「いじめか」
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