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退: 薄っぺらな人間
「宮野さんこそ…… こんな時間にどうされました?」
「近くを通りかかったらまだ明かりがついていたから。もしSNS事業部の人が残ってたら話したい事があって寄ったんだけど…… もしかして何かトラブル? 手伝えることある?」
絶対に本人たちに文句は言わないという約束で、私はことの顛末を話した。それくらいは許されるだろうと思ったし、誰かに愚痴らないとやっていられなかった。あと、不思議と宮野さんには全て見透かされているような気がした。隠しても意味がないと思い、素直に白状した。
「佐々木さんって目を離すとすぐ手を抜くから信用していなかったけど、本当に最低だな。俺なら……」
そこで話すのをやめ、私の仕事の邪魔をしていないか気に留めてくれた。資料のやり直しはもうセルフチェックをしたらお終いだ。「俺なら」の次に続く言葉が少し気になった。
「あ、お構いなく。もうすぐ終わるので。宮野さんも、帰っちゃって平気ですよ」
「ううん。もう遅いし一緒に帰ろうよ、方角同じでしょ? あ、やっぱりちょっと待ってて!」
宮野さんはそう言って急いでどこかへ行ってしまった。一緒に帰る…… この状況に少し前の私ならスキップどころかタップダンスをしていただろう。しかし今は違う。確かに心は綺麗に洗われたが、これ以上彼に色恋を期待してしまってはいけない。そうこうしていると、息が上がった様子の彼が戻ってきた。
「ごめん、コンビニしかやってなかった! けどないよりはマシかなって」
そう言って彼はコンビニのコーヒーとチョコレートなどの菓子が詰まった袋をデスクに置いた。
「終わったみたいだね。お疲れ様。お酒弱いって言ってたし、今は糖分が欲しいかなって。持って帰ったって全然いいんだけど…… 良ければ愚痴がてら食べていかない?」
意志が弱いわけじゃない。2月の寒空の中、汗ばむほどに急いで買ってきてくれたお菓子の処遇は、購入者の意向に添わせるべきだろうと思ったまでだ。
「何から何まですみません。それじゃあお言葉に甘えて」
「とことん甘えてくださいな」
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