退: 薄っぺらな人間

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 一通り部長と佐々木の悪口やその他の鬱憤をぶちまけた。宮野さんは優しく頷いたり「そーだそーだ!」と合いの手を入れてくれた。一息ついたところで、彼が言った。 「加賀さんは優しいね。今日のこともさ、言い返さなかったのは勇気が出なかったからじゃなくて、残される人たちの事を考えてのことでしょう?」  何故そう思うのだろうか。だけれど実のところ否定はできない。私の退社を悔やんでくれたあの後輩は、佐々木が私の仕事を請け負った事を知っていた。「私我慢なりません!部長に事実を話してきます!」そう言ってくれた彼女を必死に止めた。どうせ辞める私の為に彼女が佐々木の奴に目をつけられてはならない。  社内の高齢化が進んでいる為か年功序列の力が強く、お茶汲みは暗黙の了解で女性がやるような職場である。  新部署の話し合いの際にも「俺みたいな立場の人間が、上の人たちの意識を変えていかないとね」と宮野さんが言っていた。綺麗事ではないのだろうなと、彼の目を見て思った。  「優しいね」に対する応えがまだだった。適当に謙遜しようと思ってから、ある考えが浮かんだ。  ここで私という人間の本質を曝け出せば、きっと宮野さんでも面倒な女だと思うんじゃないか。そうすれば踏ん切りがつくのではないか。  半ばどうにでもなれという気持ちだった…… 「私はそんな素敵な人間じゃありません。むしろもっと、つまらなくて、薄っぺらな人間です」  宮野さんが黙って私を見つめる。私も気にせず続ける。 「なんで生きなきゃいけないんだろうって、考えたことありますか?」
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