出:栞

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   スマホに飛びつき通知を確認する。 「その後どうですか?」  心臓の鼓動が速くなり、そして、だんだんと落ち着いた。それは宮野さんからの連絡ではなかった。  通知は出張買取店からのものだった。実家に戻るということで、家電などを買い取ってもらう為に連絡を取っていたのだ。母からは「部屋は大学の頃のままにしてるから、ソファーとか持ち込んでも置き場所ないからね」と釘を刺されている。  初めての一人暮らしに浮かれて、割とこだわって集めた家具の数々。売っても二束三文にしかならないのなら、知人に譲るという手もある。そういう訳で、取り敢えず査定だけしてもらう運びになっていた。  気持ちが揺らぐ…… 本当にこのまま田舎へ帰って良いのだろうか。宮野さんに何かを期待している自分に嫌気が差す。上手くいきそうなら東京に残ろうという魂胆は、彼をキープしているようで、自分が卑しく思えた。決めるなら彼を抜きにして考えるべきだ。  我慢すべき所と、立ち上がるべき所……  私は店舗からの日程調整のメールに、査定をキャンセルしたい旨の返信をした。そして、勢いに任せて母に電話をかける。3コールほどで繋がった。
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