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出:解いた手
タイムカードを付けるようになって半月。だからといって、急に私の人生がバラ色になったわけではなかった。あの卑屈な私が顔を覗かせることはしょっちゅうで、そういう時は素直に退勤時刻を記入して、湖の底に落ちていくように静かに一日の終わりを迎える。
ただ、もう1人の私が後ろから呼び止めても、そこまで戻る必要はないのだと気づいた。前進か後退か…… 今までその二項対立でしかなかった私の生き方に「立ち止まって休む」という選択肢が増えた。
さながら人生のポートフォリオ。形ないものに対する漠然とした不安が、タイムカードに記すことで少しずつ和らいでいった。
宮野さんに会いたい。貴方がくれたタイムカードが、私の心を存外救ってくれたと伝えたい。貴方がいるこの場所で、もう少し頑張ってみることにしたのだと話したい。
その機会は突然訪れた。
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